福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

法改正を活用し攻めていこう

 1993年、安田系3病院(大和川、安田、大阪円生)と呼ばれた精神科病院を舞台に、社会を震撼させる事件が発覚しました。医師を含む職員の水増しなどの不正請求や数々の違法行為の実行と隠蔽、患者に対する虐待や暴力…。およそこの世のものとは思えない驚愕、仰天の事件でした。大阪地検特捜部も動き、最後はトップのY医師が逮捕され、3病院は閉鎖となりました。この事件は筋金入りの悪徳病院による犯罪行為ということだけではなく、精神障害者を差別・排除する社会の縮図でした。そして今もなおこの構図は基本的に変わっていません。法制度によって精神障害者を強制入院させる仕組みすら残されており、認知症の人を含め、今も1年以上の長期入院患者が16万人もいるのです。

 そんな中、昨年末に精神障害者保健福祉法の改正が決まりました。マスコミでもあまり報道されていませんが、多くの関係者の奮闘によって、同法の目的規定に「精神障害者の権利の擁護」が追加明記されることになったのです。あの悪名高き安田系3病院事件から30年、約四半世紀の時を経てようやく法律ではじめて権利擁護が謳われるのです。熾烈なバトルを制した画期的な一歩だと思います。

 そして、この目的遂行のための具体策として「入院者訪問支援事業」という新たな制度が創設されることになりました。ほんの小さな一歩かもしれませんが、私は、この新制度に一縷の希みを感じています。精神科病院が抱える閉鎖性(意味のない隔離や閉鎖病棟など)や非人間性(医療保護という名の強制入院や身体拘束などの行動制限)の悪弊を打ち砕いていく事業に育てていけると思うからです。所定の研修をうけた人を行政が入院者訪問支援員として任命し、入院患者の希望に応じて病院へ派遣、各種の相談に応じながら、退院支援を含む必要な情報提供等を行うという事業です。ただし事業の実施は都道府県等の任意とされており、今後、大阪府をはじめ地方自治体の動向を注視する必要があります。

 ここ数年のコロナ禍では精神科病院の処遇実態は悲惨でした。また、一昨年には、業界団体トップの医師が、精神科病院は治療だけでなく「保安」の役割を担っているので、そのことをもっと評価(報酬アップ)してほしいと強弁する始末。情けない。一方、追い風もあります。昨年、国連の障害者の権利に関する委員会が、日本の精神科病院で行われている強制的な入院や治療を廃止するよう日本政府に勧告したのです。さらに、昨年11月には東京調布市にある精神科病院の慢性期病棟(227床)が閉鎖され、入院患者の約9割が地域で暮らし始めるなど力強い好事例もでてきました。ここからが踏ん張りどころです。精神障害者の権利擁護のために何をなすべきか。医療政策において、そもそも私は、診療所は民間でもいいが、病院は公が役割を担うべきだと考えており、特に精神科病院は公立等の非営利で運営し、世界に恥じない人権水準をもった医療を確保すべきだと思っています。どう思われますか。