本年3月現在、西成区の生活保護受給者は約2万3600人(保護率22.4%)。人口の5人に1人が生活保護という街で福祉活動をする私たちにとって、保護制度の理解は必要不可欠なスキルです。生活保護世帯の孫が進学しているということで、生活保護から切り離す世帯分離を行い、孫は看護学校に通いながら準看としてアルバイトをしていた事例。なんと行政はアルバイトにより孫に収入が発生したとして世帯分離を解除し、同居の高齢夫婦の生活保護を打ち切ったのです。この問題をめぐって訴訟が起こり、今月初め、打ち切りの取り消しを命じる熊本地裁判決が出されました。当たり前です。
生活保護世帯の子どもの進路・就学をめぐっては、紆余曲折が続いています。高校は義務教育でないため生活保護の教育扶助は適用されません。保護世帯の子どもは中学を卒業すれば社会へ出て働き、家にお金を入れなさいという非人間的な扱いを受けてきました。しかし高校進学率がかなり上昇してきたあたりから、進学自体は認められるようになります。しかしこれは就学保障という視点ではなく、あくまで卒業後の安定就労に資するという解釈。だから保護費は教育扶助ではなく生業扶助(高等学校等就学費)扱いです(今は低所得世帯の高校授業料は原則無償)。ましてや熊本地裁で争われている大学等の進学は論外の贅沢品なので今も認められていません。そこで同じ家に暮らしつつも世帯分離という手法で子や孫を保護世帯から切り離し、言わば例外として進学を黙認する措置が取られているのです。
生活保護制度は、現在も実質的に劣等処遇原則が敷かれ、最低生活の保障という理屈で、贅沢品の使用を認めていません。大学以外にも持ち家、車などはダメで、売却が求められます(最近は条件付きで認められる場合もあります)。病気療養の薬も先発医薬品は贅沢なので後発医薬品の使用が原則です。一方、クーラーは昔ダメでしたが、今は認められています。最近ではスマホがOKとなりました。贅沢品か否かの判断材料の1つに普及率があり、これが80%を超えると贅沢品ではなく生活用品として認められるのが一般的です。既述の高校も進学率が80%超えたので1970年に認められるようになったのです。大学はどうか。2021年度実績では大学進学率は55%、短大4%、高専1%、専修学校24%で合計84%となり、高校卒業後、何らかの形で進学する人はすでに8割を超えているのです。
私は、高校は義務化し、費用は全額無償にすべきだと思います。そして大学もお金の心配なしに希望する全員が進学できるよう原則返済不要の奨学金制度を教育施策として創設し、生活保護世帯については、現下の普及率も勘案して進学を認めるべきだと思います。しかも、世帯分離などという姑息な手法でなく、きちんと世帯内就学を認め、就学保障と安定就労を通じた自立支援を行う。それが結果として子どもの貧困対策となり、貧困の世代間連鎖も断ち切る一助になると思います。要は政治判断です。