福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

ストップ・ザ・扶養照会

 日本では2011年頃から生活保護の利用者が微増していて、コロナ禍でそのスピードはやや加速していると言われています。しかし大きなトレンドは変わらず、諸外国に比べて日本の生活保護世帯数はかなり低い水準となっています。それは日本にはお金持ちが多いからではなく、制度の捕捉率が極端に低い(漏給率が高い)からなのです。生活保護を利用できる資格のある低所得者のうち、現に利用している人の割合を捕捉率といい、日本では約2割だと言われています(欧米では4~8割)。なぜ捕捉率がここまで低いのか。理由はいろいろです。保護制度における申請主義や住宅扶助単給がないなどの制度的欠陥、根強いスティグマ(社会から与えられる恥や負い目の烙印)問題や申請窓口で執拗に繰り返されるいわゆる水際作戦…。そして、これらと相まって悪名高き扶養照会という制度があるからです。

 扶養照会制度とは生活保護を申請したご本人の親族に「あなた身内でしょ、援助できませんか」と行政が問い合わせるもの。他人に迷惑をかけたくない、自分の窮乏を身内に知られたくない申請者は、この扶養照会によって申請意思が委縮し、多くが辞退に追い込まれています。また、扶養照会を恐れ、保護を申請せず、結果、ホームレスになったり、時には餓死や自死といった問題にまで発展します。照会を受けた親族も突然の通知に翻弄され、仕送りできないことに罪悪感を抱いたり、これ以上、関わりたくないと忌避意識が芽生えたりします。ちなみに膨大な時間と労力、経費がかかる扶養照会を通じて、親族の援助が実現するケースは1%以下という統計もあり、はっきり言って税金の無駄使いでしょう。

 一方、朗報があります。昨年3月、厚労省から通知が発出され、「聞き取りの中で、要保護者が扶養照会を拒んでいる場合等においては、その理由について特に丁寧に聞き取りを行い、照会の対象となる扶養義務者が『扶養義務履行が期待できない者』に該当するか否かという観点から検討を行うべきである」とされたのです。容赦なき扶養照会の時代から本人意思確認の時代へと変わりつつあります。自治体により温度差はありますが、申請者は「私の親族は、○○の事情から扶養が期待できないので、問い合わせをしないでほしい」旨を申出ることができ、これが認められれば扶養照会はナシ。法律により扶養は生活保護に「優先」されるのですが、決して保護開始の「要件」ではないので、扶養照会の省略は当然と言えば当然。でも国の変更通知は画期的な前進で、ホームレス支援団体や多くの弁護士などによる粘り強い運動の成果です。全国の議会でも扶養照会の廃止を求める意見書が多数提出されています。チャンスです。扶養照会制度は親族関係を不必要に分断し、憲法25条の最低生活保障の精神を空洞化させる前近代的な制度的差別です。ぜひ今夏の参院選を通じて扶養照会制度の全廃を求める世論を喚起し、政治を動かしたいもの。政治もコロナ禍の今こそ機を見るに敏な行動をとってほしいと思います。