今月初め、2022年度の厚労省予算概算要求が公表され、介護人材の確保として「介護助手等の普及を通じた多様な就労の促進」という施策が新規・推進枠として掲げられました。各都道府県が管内福祉人材センターに「介護助手等普及推進員(仮)」を配置した際の経費を補助するもので、要求額は3億円。一方、大阪府は、すでに今年度、介護助手導入支援事業を展開し、施設向け説明会などを行っています。介護助手は、足元の介護人材の不足だけでなく、日本の将来の深刻な人材不足に対応する施策として数年前から見聞きしていましたが、最近では介護における生産性向上といった課題や昨年来から続くコロナ失業者の増加ともあいまって、にわかに再注目されているということなのでしょうか。
介護助手。具体的には清掃や洗濯、イベントや趣味活動の手伝い、ベッドメイキングや食事の配膳などを想定。これにより介護福祉士らの負担が軽減され、専門的業務に専念しやすくなるというイメージです。また、介護助手は無資格で働けるので、住み慣れた地域おける高齢者の新たな就労先としても期待されています。一方、一番の心配は介護の質の低下です。看護助手なら歴史もあり、看護補助者として法律でも位置付けられ、看護師との職務分掌が明確ですが、介護界では、介護福祉士等との職務の分掌や線引きがあいまいです。今もなお老人ホームやデイサービスセンターで働くための専門資格は不要なのでなおさらです。もし介護助手を法的な配置基準上の介護職員とみなしていくことがなし崩し的に常態化すれば、介護の質は低下していくでしょう。やっぱり介護助手制度は毒饅頭なのでしょうか。
否、私はそうは思いません。介護助手の導入を通じて積極的に職務分掌を行い、計画的に介護福祉士等の専門能力を引き上げていくことこそむしろ重要だと思います。分掌された業務は、高齢者だけでなく、コロナ失業者、障害者、生活困窮者、ひとり親家庭などのいわゆる就職困難層の雇用創出・安定に貢献する可能性も秘めています。そもそも老人ホーム等は介護施設であると同時に生活施設でもあります。介護専門職といっても24時間365日ずっと介護業務ばかりしているわけではありませんので、多様な役割の人たちが共に働く現場であることが自然です。そう考えると介護助手といった補助的役割ではなく生活支援員と呼ぶべきかもしれません。そして何より、介護助手という名の地域住民が福祉事業の運営管理に携わっていくことは、官でもない民でもない今巷で話題のコモン、すなわち福祉という地域公共財を市民自らが共有し、運営管理することを通じて脱成長の社会づくりを志向する新たな公への先導役になっていく可能性すら感じるのです(ちょっと突飛でマニアックですが…)。まさに、当法人が掲げる「福祉でまちづくり」です。介護助手制度を毒饅頭と捉えるか、次代を切り拓く試金石として活かすか。賢明な判断と周到な戦略、的確なリーダーシップが求められていくでしょう。