高齢社会の進展もあいまって、いま単身高齢世帯が増加し、今後の社会保障や日々の暮らしの行く末に暗い影を落としています。高齢期における単身化には配偶者との死別によるものや離婚によるものがある一方、昨今、急増しているのは生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合/2030年の推計値:男性28%、女性19%)で、独身中年が単身高齢化するパターンが急増します。おひとりさまなどと呼ばれ、自由きままのイメージもありますが、楽観は禁物です。現代における単身高齢化は孤立・無縁状況を生み出し、生活不安や困難を作り出す危険性が非常に高いからです。
ご案内のとおり、米国の社会保障を市場主導型とするなら、北欧は政府主導型で、日本は家族主導型です。介護保険は家族主導というより家族依存型といってもよく、日本では家族力の状態により社会保障が左右される現実があります。日常生活においてもそうです。単身など家族力が低下・喪失している人は、様々な場面で苦労を強いられます。例えば入院。病院から求められる身元保証や手術の同意などそれを担う家族がいないので困ります。元気なうちはいいけれど、加齢等で心身機能が低下してくると見守りや服薬・金銭管理などが必要となり、単身では大変不安な生活を余儀なくされます。エンディングについても、葬儀の手配や遺品整理、公共料金や家賃の清算、銀行や携帯電話の解約手続き等の死後事務はいったい誰が担うのでしょう。あらかじめ準備をしておかないと大変なことになります。
そこで当法人では、新年度に向け「ひとり暮らし高齢者等安心生活アシスト事業(仮称)」の創設を検討しています。言わば家族機能を社会化する新しい「福祉でまちづくり」の事業です。西成区は単身高齢世帯が大変多く、全世帯の32%を占めています(大阪市15%)。ある校区では42%という驚異的な所もあります。20年後、日本も経験するであろう単身高齢社会が、西成区ではいま足元で起こっているということです。そんな西成で単身高齢者が安心して暮らし、不安なく最期を迎えることができるシステムが構築できれば、日本の将来に向けて何らかのメッセージになっていくと思うのです。
新事業は、既存の地域包括支援センターやケアマネージャー、障害者や生活困窮者支援の相談窓口等を通じてニーズをキャッチし、安心生活をアシストしていくイメージです。サービスフレームは「日中生活支援」「生活不安支援」「エンディング支援」の3つの構成で、計17の支援メニューを順次用意し、個々の状態に合わせてカスタマイズしていきます。中でもエンディング支援はポイントです。西成は、むこう25年で人口10万人が5.8万人になるという推計があり、他に類をみない恐ろしいほどの多死社会が進んでいく地域だからです。新事業は、財務持続性をいかに確立していくかが鍵です。困難にぶち当たるかもしれませんが、地域の英知と情熱を結集し、事業を成功させたいと思います。