福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

地域共生社会への弾み

 あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、私はいま、社会的処方という取り組みに関心を寄せています。昨年7月に政府の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)で社会的処方のモデル事業の実施が取り上げられました。それを受けて社会保障審議会で介護報酬への反映が議論され、結果、形式的ですが居宅療養指導という介護保険サービスに盛り込まれました。居宅療養指導は、医師等が患者宅を訪問し、療養上の管理・指導を行うものですが、そこに、利用者の社会生活面の課題にも目を向け、多様な社会資源につながるように留意し、必要に応じて指導・助言を行うこと、が追加されたのです。

 源流は英国です。社会的処方は健康の社会的決定要因を重視する活動で、英国では家庭医が、病気を治療するために、患者をリンクワーカーと呼ばれる専門職につなぎ、リンクワーカーは患者をアセスメントしながら、必要な社会資源につなげていきます。通常、医療では薬剤等を処方することが一般的ですが、社会的処方は、家庭医がリンクワーカーと連携しながら社会とのつながりを処方するのです。社会的処方の主な対象は、難病や慢性疾患で長期支援を必要とする人、メンタルに課題を抱える人、病気の背景に孤独・孤立、多問題な生活課題が横たわっている可能性のある人などです。例えば、うつや不眠症の治療の場合、薬剤処方に加えて、患者が関心をもつ地域のサークル活動につなげたり、同じ病気を抱える当事者グループとのつながりを処方するのです。孤立という健康リスクを回避し、言わば患者の社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)を増やすことで病気を治療しようという取り組みです。

 日本では、介護保険に盛り込まれましたが、残念ながら本流ではありません。やはり医療保険(医療報酬)において、例えば「社会的処方加算」のような形で制度化されることが重要です。もちろん、プライマリ・ケア専門医のさらなる育成も大切です。そしてなにより、リンクワーカー制度の創設がキーとなるでしょう。医師と連携して患者を社会資源へとつなげる仕事。英国では、リンクワーカーへの財政支援がしっかりと行われていて、新しい専門職として脚光をあびています。日本なら地域包括センター(社会福祉士)やケアマネージャーが近い専門機関かもしれませんが、地域の社会資源情報の蓄積においては、隣保館もまたリンクワーカーとして活躍できるポジションにあるのではないかと思います。

 社会的な孤独・孤立が広がる中、つながりの再構築を治療として位置付ける社会的処方。折しも日本では孤独・孤立担当大臣が任命されたばかり。今後の活躍に期待しつつ、次期医療報酬改定に向けて社会的処方の評価が盛り込まれればおもしろいことになってくる気がします。病気をみて患者をみないと酷評される日本の医療界ですが、社会的処方が一矢報いるかもしれません。断らない相談、参加支援、伴走型支援…。ここに社会的処方が加われば、地域共生社会づくりへの大きな弾みになりそうです。