今から30年程前、高齢者介護の中心と言えば、特養などの施設収容型が一般的でした。しかし、ノーマライゼーション理念の普及などもあいまって、1990年代から始まるゴールドプラン以降は、要介護になっても住み慣れた地域で暮らしていけるよう在宅福祉中心型へと政策転換が行われます。ホームヘルプ(訪問)、デイ(通い)、ショートステイ(泊り)を在宅3本柱として位置付け、急速にサービスを整備する一方、社会福祉士、介護福祉士という新しい国家資格をつくり、認定を開始します。結果、これらの取り組みが2000年から始まる介護保険制度の下地を作っていくことになります。
当時の高齢者介護は「身体ケア」が中心なので、要援護者一人一人のニーズや生活を切り分けて、パートパートごとにサービスを対応させていく構造をつくったのは、ある種、合理的だったのかもしれません。しかし、介護保険施行から20年を迎えようとしている今、高齢者介護の中心は「認知症ケア」へと移行しています。身体ケアと違い、認知症の人の支援には、なじみの顔の関わりが大切で、見守りなどの連続性や切れ目のない包括性がとても重要です。今のようにサービスの組み合わせ型で、入れかわり立ちかわり支援者が変われば、当事者は困惑することもあるし、支援に隙間や漏れが生じます。
当法人では古くから在宅3本柱を実施していますが、単に事業メニューが揃っていればいいというものではないし、多職種連携などで隙間や漏れがないように取り組むことは重要ですが、それでも限界はあります。中には、ヘルパーはA、デイはB、ショートはCというように複数事業所のサービスを組み合わせているケースも多く、これでは包括性が要となる認知症の人の支援としては不適切だと言わざるを得ません。私は、来るべく認知症1000万人時代を踏まえ、施設ではなく、住み慣れた在宅で、暮らし全体をトータルにサポートする包括的な安心システムの構築が必要だと思うのです。
そこで、在宅3本柱を一体的かつ臨機に提供する「小規模多機能型居宅介護事業」を始めたいと考えました。地域密着型サービスで、認知症の人の支援のみならず、西成に顕著な単身高齢者の支援にも重要な役割を果たすでしょう。また、包括ケアの代表とも言うべき特養のように大がかりな施設整備が不要なので財政的にも助かります。いずれは訪問看護や訪問診療、リハビリや配食なども交差させ、看取りなどにも対応。名実ともに「自宅にいながら特養なみのサービスが利用できる」まちづくりへとつなげたいのです。20年前、私たちは開設した特養に「まちかどホーム」という名称を付けました。どんな重介護でも住み慣れた「地域」で暮らし続けることができるようにとの願いを込めたのですが、時を経た今、今度は、住み慣れた「自宅」で、ご近所づきあいをしながら、最期まで笑顔で暮らせるまちをつくる時が来ています。来月から新年度。福祉でまちづくりな新しい挑戦を始めようと思います。