福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

サンデル教授の復興討論に学ぶ


 この3月で東日本大震災からまる2年となり、ご遺族にとっては3回忌を迎えることになりました。2011年3月11日午後2時46分、未曾有の大惨事は、死者15882人、行方不明者2668人(警察庁11日まとめ)、仮設住宅に暮らす11万人を含め、避難者は31万人を超える戦後最悪の事態となり、まさに国難の渦中です。お亡くなりになられた方々には改めてご冥福をお祈り申し上げます。

 さて、最近私は『これから「正義」の話をしよう』の著書でブレイクし、ハーバード大学で政治哲学を教えているマイケル・サンデル教授に注目しています。時々、テレビ放映される公開討論会「ハーバード白熱教室」での彼のファシリテーターぶりは秀逸です。昔、日本で流行った「究極の選択」的手法で議論を深めます。その彼が2月下旬に来日し、東日本被災地の視察とともに、被災された当事者ら約1000人を東北大学に招いた「白熱教室」が行われ、その様子が放映されていました。被災した当事者がこれほど多く一堂に会し、復興に向けて熱心な討論をしたのは初めてとの説明がありましたが、討論に先立って、サンデル氏は、仮に利害や価値観が対立する問題であっても、互いの話に耳を傾け、共に学び、意見がぶつかるさまざまな課題や難しい選択について考えることが重要と語りかけ、この日は、白熱教室を「市民集会」と位置付けて議論をスタートさせました。

 「集会」では、それぞれのテーマごとに参加者全員が赤白のカードを掲げて自分の意思を表明。サンデル氏が意見の多数、少数を確認しながら、挙手でそれぞれの立場からの発言を求め、マイクを回していく。主な討論テーマと回答数をみると、①危険区域強制避難者だけでなく自主避難者にも経済的補償を行うべきか→行うべき4割、行うべきではない6割。②災害時の弱者の救助について、自分が危険な時はどうするか→見捨てる8割、見捨てない2割。③復興を進めるにあたって合意形成とスピードのどちらが大切か→合意形成2割、スピード8割。これだけでは討論の臨場感が伝わらないと思いますが、例えば、合意とスピードの討論では、合意が重要としたのは20代の若者、スピード重視を訴えたのは高齢者でした。公平や道徳、倫理に迫るいい討論で、たいへん盛り上がっていました。

 これを見て感じたのは、難しくても、ことの本質と最適解を見極める議論の重要性です。私は、阪神・淡路大震災の支援の時に、復興の最大の敵は風化、人々の無関心だということを感じたことがあり、討論や対話の重要性を痛感しています。介護保険以降、福祉業界では、ことの本質に迫る議論が少なくなった気がします。高福祉か低福祉か、認知症は障害か病気か、胃ろうをどう考えるか。最近なら生活保護費でパチンコはダメか…。復興討論に学び、福祉現場でも人権に裏打ちされた確かな福祉哲学や空論に陥らない経営哲学をもった討論を積み上げる。その重要性を再認識しつつ、改めて黙祷を捧げます。