福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

「低次元」の少子化対策

 今月、財源調達をめぐる関連法案が国会に提出されたこともあり、岸田政権の看板政策とされている「次元の異なる少子化対策」について考えてみました。持続可能な国家運営に影響を与える重要な対策であるのに、法案を見ていると、どこが異次元?やる気はあるの?看板倒れ?と言わざるを得ません。

 1つは財源調達の方法です。とにかくコソコソしていてみっともない。全体予算3.6兆円のうち約1兆円を確保するために現行の医療保険料に1人当たり月500円?相当を上乗せして、それを少子化対策に回すというのです。これでは医療保険制度の目的外利用です。しかも実質は追加負担なのに支援金などと言い換える姑息さも醜い。負担増に反対する人もいますが、なぜ正々堂々と「こども税」なり「こども保険」なりの踏み込んだ財源提案を行い議論しないのか。実務的合理性を重視したのかもしれませんが、これでは異次元の少子化対策としてはあまりに不安定で「低次元」です。国は「新しい分かち合い・連帯の仕組み」と言っています。そうであるならなおさら税なり保険なりの新たな財源案を議論し、丁寧に合意形成を行いながら少子化対策の本格的な財政基盤をつくるべきだと思うのです。

 もう1つは政策面の課題です。せっかくこども家庭庁ができたのに未だに施策がバラバラで国のこども政策の目的や戦略性があいまいなままです。今このタイミングで、子育てに関わるあらゆる政策を棚卸しし、こども家庭庁を軸に再編するべきだと思うのです。今回提案された児童手当や育児休業手当などの所得補償以外にも幅広い子育て政策があります。保育所や学校(幼稚園~大学)、乳児院、児童養護施設や児童自立支援施設など施設系もバラバラです。矯正福祉の観点で少年院も視野に入れるべきでしょう。妊産婦対策や不妊治療サポート、障害児や病児支援、離婚後の親権管理やひとり親家庭支援、こどもの貧困や虐待、不登校や引きこもり、古くて新しいヤングケアラー問題、私的分野ですが学資保険のサポートや塾代助成も有効だと思います。高齢では包括支援センター、障害では基幹型相談センターが相談のまとめ役ですが、こども分野では児童相談所を抜本改変して役割を担うのがいいと思います。各地域に整備されている家庭児童相談室の再編や地域住民が担う児童委員の活動も大切です。

 私は公的負担を4分の3とするこども保険の創設が現実的だと考えています。年金、医療、雇用に2000年から介護が加わり、今は4保険の社会保障制度となっています。ここに5つ目の社会保険としてこども保険を加えるのです。最近は年156万人(戦後最多)が死亡し、75万人(過去最少)しか出生していない日本です。相当な覚悟で対策しないと滅びゆく国家になるのではないかと心配です。

 ところで、諸般の事情により、本コラムについては2023年度末(本号)をもって休止にさせていただきます。長年のご愛読に感謝いたします。ありがとうございました。