福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

金融の社会運動

 以前、本コラムで原子力発電に関する私の意見を書きました。原発には反対、発電所については政治決断で速やかに停止・廃炉方針に戻すべきだと。原子力の危険な本質は核。原発はもとより核兵器や原爆などはもってのほかで絶対に認められません。あらゆる手段を駆使し、英知を結集して核なき世界を構築していく必要があり、今も多くの人たちが廃絶にむけてたゆまぬ努力を積み重ねています。

 廃絶に向けた活動は、デモをしたり集会を開いたり署名などで世論に訴えるものもありますが、イタリアではESG投資を通じて核廃絶に取り組むエチカファンドという民間金融機関が活躍しているそうです。ESGとは環境(E)、社会(S)、企業統治(G)の略称で、エチカファンドは、核兵器の製造状況を評価基準に、投資家から預かった約1兆円以上の資金の投資先を決めているのです。投資家もその方針を支持し運用を委託しているわけで、投資家の利益が多少棄損しても核兵器廃絶が進むならウエルカムという言わば投資家による金融を通じた反核・平和の社会運動なのです。むろん現在のところ利益棄損の心配はなくエチカファンドはイタリアでトップクラスの利益を生み出しているようです。ESG投資は日本でも広がりを見せ始めていますが、気候変動や自然保護、人権や強制労働などのテーマに取り組む企業への投資が目立ち、核兵器廃絶をターゲットにした投資は多くないと思います。

 古い話ですが私はイタリアの「バンカエティカ(倫理銀行)」という金融機関を視察したことがあります。銀行なので市民が預金をするのですが、この銀行では融資事業において公益活動に熱心な企業に対して積極融資を行っていました。どんな公益分野に融資するかは預金者の希望で行われ、預金利息の配分も預金者自身が決める銀行です。利息収入がいらない預金者は全額を公益に回すし、○割利益、○割貢献というパターンでもかまいません。いわば預金を通じて社会貢献しているのです。イタリアってすごいなぁと思います。日本では「儲けない銀行」で有名な労金さんがこうした方面に積極的です。

 エチカファンドは、核兵器廃絶国際キャンペーンとも連携し他の金融機関にも核兵器製造企業への投資禁止を呼び掛けたりしています。片や日本は先月開催された第2回核兵器禁止条約締結国会議に(オブザーバー)参加すらしていません。被爆国の教訓を訴える絶好のチャンスを棒に振っているのです。核保有国と非保有国の橋渡し役を自称するなら国際賢人会議等でお茶を濁さず締結国会議に参加すべきなのです。ロシア・ウクライナ戦争、パレスチナ問題など、核兵器使用を想起させる厳しい世界情勢となっています。米国の核の傘に入りつつ、核兵器禁止条約の締結にも取り組む腹の座った二刀流政治が必要です。しっかりと米国を説得し、世界唯一の被爆国としての役割を担ってほしいと思います。そして経済大国の日本は、エチカファンドを見習い、財務を通じた反核・平和の戦略も持つべきです。