最近、福田村事件という映画を観ました。1923年の関東大震災(M7.9、死者・行方不明者10万5千人)から100年目の今年、震災下で起こった朝鮮人虐殺を題材にしています(以下ネタバレにご注意)。震災で関東一円は火の海と化し、朝鮮人が火をつけた、井戸に毒を入れた、集団で襲ってくるとデマが広がり、多くの「鮮人」が虐殺されます(一説では6000名以上)。こうした中、震災5日後の9月6日、千葉県福田村(現・野田市)で事件が起こります。香川県から置き薬の行商に訪れていた日本人15人が朝鮮人と誤認され、うち9人が虐殺されて、利根川に流されてしまうのです。
誤認虐殺された行商人が被差別部落の人だったということもあり、本作では部落問題も作品内に出てきます。部落の人たちが差別の厳しさを語りながら将来を悲観する様子や震災前年に結成された全国水平社の水平社宣言に対する畏敬の念なども表現されています。さらに本作ではハンセン病問題も登場します。お遍路姿の人と行商人が接触するシーンで、お遍路さんの手首から先が欠損している場面や、恐らく療養所なのでしょう病人が集団で生活している所に行商人が薬を売りに行く映像も出てきます。
朝鮮人虐殺は軍隊・警察・自警団らにより行われ、マスコミも「不逞鮮人」という惨い表現でこれを扇動します。朝鮮人以外には社会主義者や中国人も殺され、映画には出てきませんが浅草では聴覚障害者も殺されています。自警団は、朝鮮人かどうかを確かめるために、濁音を発音しない朝鮮語の特徴を利用して「15円50銭」と相手に言わせるのです。行商人はこれをスッと話しますが、讃岐弁の音調や抑揚でうまく通じず、加えて、世間に蔓延していた行商人への蔑視が重なり、朝鮮人とみなされて殺されるのです。発話が困難だった聴覚障害者もこの15円50銭のやりとりがうまくいかず殺されています。震災による窮乏・ストレスに偏見や差別が重なり、普通の村人が暴徒化してしまったのです。
福田村事件後、自警団のうち8名が殺人罪に問われ懲役の有罪判決を受けますが、2年後、昭和天皇即位による恩赦で無罪釈放されます。被告らは、自分たちは郷土を朝鮮人から守った憂国の志士であると裁判で主張したそうです。その後、関係者らの努力もあり2003年に野田市内の霊園に追悼慰霊碑が建立されます。しかし碑には故人となった理由は書かれていないようです。今年の6月に開催された野田市議会で、市長が福田村事件の被害者に対する哀悼の意をはじめて示したそうです。遅すぎます。さらに、朝鮮人虐殺に関する公式記録は2009年の中央防災会議報告書に記載されているのに、松野官房長官は、今年8月の記者会見で「政府内で事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」とうそぶく始末。ホントに情けない。最後に蛇足ですが、映画出演者にピエール瀧、東出昌弘、水道橋博士など最近話題のタレントさんが多くキャスティングされたのはなぜなのかなぁと感じました。