6月14日、国会で認知症基本法が全会一致で成立。今後、総合的な認知症施策が始まっていきますが、界隈ではアルツハイマー型認知症の新薬のことが話題になっています。レカネマブというお薬で、すでに米国では迅速承認され(今年1月)、日本でも審査が行われています(9月頃に結論)。
新薬の特徴は、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβというたんぱく質に直接働きかけ認知症の進行を遅らせることができるというもの。アリセプトなどの従来薬は一時的に症状を軽くするものが多く、進行を遅らせることはできませんでした。これに対してレカネマブでは、約1800人を対象にした治験で(2週間に1回、18ヶ月間、新薬・偽薬を点滴投与)、新薬群の認知機能の悪化度が偽薬群に比べ27%抑制されたようです。これは推定2~3年は認知症の重症化を遅らせることができるというものです。画期的な新薬かもしれませんが注意も必要です。まずは治らない、進行は緩やかになるが投薬後も悪化は継続する、重症者はじめ認知症の人すべてが対象ではない、などといったことを知っておくことも大切です。また2割程度で脳の浮腫や出血などの副作用も起こっているようです。
新薬は軽度認知障害(MCI)や軽度認知症など早期アルツハイマー病に有効のようで早期発見が大切です。アルツハイマー病は、発症の20年以上前からアミロイドβが脳内に蓄積されることにより起こるもので、突然発症するわけではありません。老化等の加齢が主要な原因なので現在の医療では治癒することはありません。現在600万人、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると予測されています。専門医等が少ないものの、脳のペット検査や脳脊髄液検査など早期発見に関する取り組みも徐々に進み、九州のある地方では認知機能検査、MRI検査に血液検査(血液バイオマーカー)を組み合わせて、簡便でかつ精度の高い診断を行うなど早期発見に取り組みはじめています。
さぁここでクエスチョンです。新薬を使えば悪化スピードが鈍化し、3年程度重症化が遅くなる。これをどう考えるか。副作用も気になりますが、ポイントの1つは価格でしょう。迅速承認された米国での薬価は日本円で年間約370万円です。仮に日本でも同価格で設定され保険適用となれば、自己負担は3割なら約110万円強(高額療養費制度あり)、社会負担も増加します。決して安くはなく、現段階では投薬期間も未定です。もう1つは年齢でしょう。なんせ進行抑制効果は約3年なので慎重に検討することが大切です。さてあなたならリスクとベネフィットをどう考えますか。なお当法人では尊厳保持を基本に、共生と予防という一見相矛盾した分野を実践的に統合させ、学習会や啓発イベントを開催したり、りんごの会という当事者組織の応援もしています。また、法人運営の診療所では認知症外来も行っていますので、ご自身やご身内、ご友人等で気にかかる人がいればぜひ受診してみて下さい。