今なお日本では終身雇用、年功序列の雇用慣行は根強く、仮に新規学卒者を1人採用すれば累積約2億円の人材投資となる覚悟が必要です。なので、求人企業は慎重に求職者の能力と適性を見極める必要があり、1次試験、2次試験、時には3次試験もする。実技試験などで専門性等を見ながら採用を決定したりします。しかしながら過去、こともあろうに部落地名総鑑を活用する不届き企業もありました。また、求職者の履歴書を調査会社にFAXし、調査会社はそれをもとに親の職業や国籍、居住環境や地域特性、購読している新聞や宗教への関心などを調べ企業に報告。企業はその情報を採否に活用するという事案もありました。残念ながらこれら発注企業の中には大阪の社会福祉法人の名もありました。
そんな中、新手で荒手な「裏アカ調査」なる方法で採用行為を行っている企業が増えているという報道に触れました。厚労省も「裏アカ調査」の存在を知っているようですが(特定募集情報提供事業者)、実態把握等は行われておらず、今のところ詳細は不明です。裏アカとは裏アカウントの略で、ネット空間において実名以外で登録されている個人アカウントのこと。サブアカと呼ばれたりもするようです。企業から委託を受けた調査会社が、求職者の裏アカを暴き出し、裏アカを使ったSNS(ツイッターやインスタ、ティックトックなど)の利用実態をかたっぱしから調べあげ、求職者の裏アカ上の人となりを企業に報告するのです。しかもご丁寧に「問題なし」「懸念あり」など4~5段階の評価まで添えられているようです。通常でも匿名性が高いネット空間に裏アカのフィルターも加わるので、時には求職者の暴走ぶりが露見することもあるでしょう。交友関係や視聴映像、買い物履歴なども知られます。調査を委託する企業にとっては履歴書詐称の点検、いわゆるバイトテロなどの企業防衛、採用ミスマッチの抑制という側面がある一方、求職者の本性を知るための手段と位置付ける企業もあります。形式的には本人の同意を得て調査が行われているようですが、求職者という立場の脆弱性を考えるとその同意自体が無効だと思います。余談ですが、今話題のチャットGPTやBARD(バード)をはじめとする生成AIなら採否のアドバイスをしてくれ、「AI選考」と称して運用される時代が来る気がします。
これまで国は、社用紙に替えて統一応募用紙の活用を呼びかけたり、職安法を改正し公正採用の取り組みを推奨、障害者雇用の積極促進や男女雇用機会均等の取り組みを進めてきました。最近ではLGBTQの課題を踏まえ性別を問わないトイレを社内に整備したりする企業もでてきています。結婚と共に就職は生涯を左右する人生の一大イベントです。しかし裏アカ調査等の話を聞かされると、公正採用選考システムづくりはまだまだ道半ばだなぁと実感します。多様性が重んじられる国際的な企業競争力の確保にもマイナスです。負けてられません。雇用と人権の推進へさらなる努力を続けたいと思います。