なんだかイヤーな予感がしています。今月26日から新型コロナワクチンの接種履歴を公的に証明する、いわゆる「ワクチンパスポート」の発行に向けた受付が始まるからです。今回は海外渡航向けのようです。しかし、ことの性質上、国内での運用に広がることは容易に想像でき、これが独り歩きしだすと、ワクチン接種の有無による社会の分断・格差・差別が始まっていくのではないかと心配なのです。
そこでまず確認が必要なことは、今回のパスポートはあくまで接種の履歴を証明するものであり、コロナに感染していないとか、感染させないことを証明するものではないということです。しかし、こういった類の話は、この本質がすぐに忘れられ、接種当事者でさえ勘違いすることもあります。また、ワクチン接種への同調圧力が広がる中、打たない、打てない人たちへの合理的配慮がほぼ皆無な状態でのスタートであることも気がかりです。自分の周囲や社会のためにとか、若者は高齢者のために接種しようということを聞きますが、本末転倒です。ワクチンは自分のために接種するものです。打たない、打てない人たちは、こうした抑圧に抗いながら日々を送っておられるでしょうが、ここに接種履歴の公的な証明という力が加われば、ストレスは増加するでしょう。今の雰囲気だと非接種者が忌避され、非国民呼ばわりされかねません。早急に非接種者への適切な配慮と保護のルールづくりが必要です。
すでに経済界などでは、ワクチンパスポートを内需喚起の起爆剤にしようと提言を始めているようですが、とんでもない話です。パスポート活用推進派は、「ワクチンの非接種者を差別・排除する意図はなく、あくまで接種者を優遇するだけ」とダンゴ理屈を並べるかもしれませんが、全くもってナンセンスです。昨年、居酒屋などでPCR検査陰性者への割引サービスが行われていましたが、検査とワクチンとでは次元が全く違います。また、医療分野を含め、接種完了を就業条件にしようものなら完全にアウト、人権侵害です。社会経済活動再開の条件に個人の接種履歴を使ってはいけないと思うのです。
さらに、今回のワクチン接種は全員無料ですが、今後、インフルエンザワクチンのように有料となれば、全く話は違ってきます。費用を含め、ワクチンのリスクとベネフィットが厳密に精査され、所得格差による接種・非接種が出現し、社会に新たな分断や格差、不利益や差別を引き起こす危険性があるからです。特に、西成区のように低所得者が多住する地域では、そのリスクは大きくなると思います。
まもなく東京オリ・パラが始まります。ワクチンの効能期間は…、中長期的な副反応リスクは…、特効薬の展望は…。何にもわからない暗たん下での開幕です。大会には西成出身のアスリートも出場するようで、本来なら華やかで感動的なオリ・パラのはず。でも、何だか素直に楽しめない、むしろ感染拡大や市民の分断を誘発する迷惑なイベント。もしそんな烙印が押されたらアスリートもかわいそうです。