今月、基本理念の創設を含めた生活困窮者自立支援法が改正されました。厚生労働省が先導する「我が事、丸ごと」を合言葉にした地域共生社会づくりも各方面で話題になっています。巷では我が事、丸ごとのあとに続いて「綺麗ごと」が見え隠れすると揶揄されていますが、地域共生社会というフレーズは、地域立の福祉法人を自認する私たちにとってシンパシーを感じます。時代がやっと私たちに追いついてきたと、つい鼻高にもなってしまうのですが、同時に、公的責任の放棄、地域への丸投げを警戒したりもしています。というのも、今も国が続けている現実の行政は我が事でなく自己責任、丸ごとでなく縦割りそのものだからです。それらの現実を棚上げしたまま、地域共生、困窮者支援と言われても、どの口が言ってるの?って感じになります。生活困窮問題を解決し、本気で地域共生社会を創りたいのなら、少なくとも以下の改革にも取り組んでいかないと、綺麗ごとのそしりは免れません。
まずは、福祉制度における申請主義の見直しです。これが、生活困窮や多問題、社会的孤立などの発見を遅らせる要因となっています。多くの困難は潜在しているのが常で、申請がなくても必要な人に必要なサービスが届くシステムづくりが必要です。また、福祉制度の基本哲学となっている補足性や劣等処遇の原則も早期に転換させるべきです。多くの福祉課題を可視化させにくくしているだけでなく、この原則によってつくられる最低生活の長期継続やスティグマは、やがて自己肯定感を奪い、刹那な人生やセルフネグレクトを生み出し、本来の自立への道を閉ざしてしまうからです。生活保護制度で例えるなら、今の水準均衡方式をやめ、マーケット・バスケット方式に戻すなどの改革が必要です。補足的な劣等処遇でなく、福祉が人間の安全保障にかかる普遍的価値となるような構造改革が必要なのです。
さらに、政策面でも改革が必要です。特に、住宅と労働政策の改革は必須です。住宅困窮問題は、持ち家中心の今の住宅政策の犠牲者であり、失業・無業や低賃金労働問題は、職業安定行政を軸とした労働政策の限界だと捉える必要があるのではないでしょうか。住まいは人権であり、所得の差が、住まいの格差にならないようにすること。最低でも、現物給付型は卒業し、住宅手当などの現金給付型に転換すべきです。労働政策では、職安登録ベースの失業者対策ではなく、フル就業な社会づくりをめざす労働政策への転換が必要であり、ワンチャンスではなく人生100年時代を見据えた新時代のディーセントワーク政策の樹立が不可欠です。そして、財源です。休眠口座もいいのですが、先般、全国市長会が提案された「協働地域社会税」は共生や社会連帯を想起させるたいへん魅力的な政策です。今後も地域共生施策は進められますが、これを単なる対処療法に終わらせないためにも、こうした福祉の構造改革が必要です。他にも課題は多いと思いますが、取り急ぎ、丸投げさせないための一言ということで。