同和問題はなくなった。そう言わんばかりの調査報告が、今年3月、大阪市から出されました。国勢調査を活用して同和地区の人口・世帯、教育、労働、住まい等の実態を調査・分析したものですが、同時に、市平均と比べて著しい格差のあるエリアを「平均乖離地域」と定義して調査しています。乖離地域にフラッグを立てていくと、それは市営住宅群に集中する。これを同和地区と比較すると同様の生活困窮実態が存在していると分析。同和問題はなくなった、と明言までは避けているものの、両者は「ほぼ類似している」と結んでいます。同和地区への特別対策は不要というメッセージなのでしょう。
でもなぜ、明言しないのか。市に聞いてみないとわかりませんが、1つは、同和地区を除く市営住宅群では、いつ頃から困窮問題が始まったのかという歴史性が不明瞭だからでしょう。同和地区の生活困窮には相当の累積性があります。また、2006年度以前は、定住を旨とする同和向け公営住宅と一般住宅とでは入居選考ルールが違っていたことも考慮する必要があるでしょう。さらに、今の住宅入居選考方式を考えれば、全国的にも公営住宅に困窮問題は集中しているはずで、そうした実態も把握し大阪市との関係性を確認する必要もあります。そして、同和地区の困窮実態は、かねてよりの同和地区に対する偏見とあいまって、差別意識を助長しかねない点も一般住宅にはない特性として認識する必要があります。困窮問題の市営住宅への偏在を、市域に広がる現代の都市スラム問題と位置づける有識者もおられますが、仮に、全国的にも公営住宅に困窮問題が集積しているなら国策が必要でしょう。また、現物給付型の今の公営住宅政策を現金(住宅手当)給付型へと転換させる必要性も痛感します。いずれにせよ、これは大阪市政にとって重大な課題です。この課題の解決を同和地区への特別対策に矮小化する方が財政的にお得でしょうが、そうはいきません。すでに市営住宅10万戸問題と化しています。
私たち福祉法人では、20年くらい前から「集会所福祉」と名付けて、住宅集会所を支援の拠点として位置づけ、様々な取り組みを進めてきましたが、今まさに、大阪市内の住宅集会所を課題解決の拠点として見立て、必要な対策を構築すべきだと思います。まずは、総合相談をはじめとする生活困窮者支援制度の重点的・集中的展開です。また、医療や保健、福祉や介護、教育や就労支援などあらゆる施策を住宅集会所に総動員し、「地域包括」ならぬ「住宅包括」支援システムを構築していくのです。住民自治力やまちづくりの経験を活かして同和地区をモデルに事業を先行展開し、成功例を全市に水平展開するパターンがあってもいい。今回の市の調査報告は、同和問題がなくなったというより、「同和問題を人権問題という本質から捉え、この問題の解決を人権問題の解決につなげていく」とした地対協意見具申の指摘を現代に甦生する好機だと忖度し、ブレイクスルーしていくことが大切だと思います。