古くから街の住みやすさは、その地域の住まいと住民の健康状態に表れると言われています。残念ながら、私たちの活動舞台である西成区は、大規模震災が起これば甚大な被害が起こると国が指定した老朽住宅密集市街地で、しかも日本で一番平均寿命が短い「短命区」。住まいや健康の指標ではお世辞にも住みやすいとは言えません。そして最近、街の住みやすさを左右する新しい指標が生まれています。それは、地域住民力です。地域の住民力のありようを問う2つの大きな流れが動き始めているのです。
一つは、介護保険制度の見直しです。ここ数年の改訂トレンドは、軽度の人を全国共通の介護保険から除外して、市町村事業に移管。市町村では、報酬をカットしつつ、ボランティアを含めた地域住民力をベースに、軽度の人達をサポートしていく方向に動いていきます。もう一つは「我が事、丸ごと」をキャッチフレーズに進められている地域共生社会づくりに向けた動きです。生活困窮者を含め8050問題など、制度の狭間で起こっている地域の社会問題を、我が事として捉え住民力で解決していく。とはいえ住民はその道のプロではないので、支え合い、見守りなどがキーワードになっています。
ことの善し悪しは別にして、これからはこの住民力の強い地域では、軽度の高齢者は安心だし、制度の狭間で、もがいている住民もきっと心強いでしょう。逆に、住民力が弱い地域では介護難民や孤立住民続出の恐れすらあります。そんな新たに始まる「住民力格差」に危機感を感じて、最近、西成の住民力を強めるにはどうすればいいかと思案を始めました。西成は高齢化率が40%と大阪市内最高。単身の男性が多く、照れ屋さんも多い。60歳以上の生活保護率はなんと40%(大阪市10%)。今は自分のことが精一杯で、ひと様を支えるだの、見守るだのに余裕を持てない人たちも多く、また、過去の辛い路上生活の経験などから社会の冷たさを実感し、人にやさしくすることに戸惑いを感じている人も少なくありません。そんな西成で、いかに住民力をエンパワーメントしていくか。結構、難問です。
で、とりあえず昨年から始めたのが「気配りさん」活動です。支えるとか見守るなどといったヘビー&ディープなものでなく、日常の生活の中で、気になる人を見かけたり情報をキャッチしたら私たち福祉法人に連絡するという簡便なもの。今のところわずか20数名の個人と20弱の商店の登録しかない小さなネットワークですが、今年は、この輪を大きく広げ、育みたいと考えています。特別なことは不要です。毎日の買い物や銭湯に出かけた時に、通院・通勤・通学の際に、日課にしている犬の散歩やウォーキングの途中で、見たり聞いたりした気になる情報を連絡するだけ。西成を住みよい街にまちにしていくための身の丈にあった住民主体の参加型福祉活動で、地域住民力アップに向けた確実な第1歩にしていきたいと考えています。是非、あなたも「気配りさん」登録し、活動に参加してみませんか。