福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

老い支度


 山田洋次監督の「家族はつらいよ」をご存知でしょうか。今どき珍しい3世代同居家族を舞台にしたホームコメディです。第1作は熟年離婚。2作目は無縁社会をテーマに、齢70を超えた主役の橋爪功さんから車の免許を取り上げるトピックが描かれています。住居は坂道を昇った高台にあり、足腰が衰えていく彼にとって、車は大切な外出手段。現役を引退し、趣味にいそしむ橋爪さん。車が居場所と出番づくりの重要なツールにもなっています。しかし最近は、認知力や判断力が衰えたせいか、車を電柱にぶつけたりする始末。もし人身事故にでもなれば大変だと家族全員が免許の返納を迫るのですが、当人はまだまだ大丈夫、とこれを拒否ってバトル勃発。なかなか奥の深い、いいテーマだと思います。

 先日、知人の葬儀に参列した時のこと。亡くなられたのは83歳、男性。夫婦二人暮らし。ご遺族によると男性は70歳台半ばに脳梗塞を発症。後遺症でマヒが残り、要介護となる。その後、認知症を発症。しだいに状態が悪化し重介護に。老々介護が続き、つれあいさんが介護うつになる。そんな中、免許返納の話題となり、離れて暮らす子ども家族を巻き込んでの大バトルになったというのです。それもそのはず、この男性、この道一筋、数十年間タクシーの運転手をし、しかも個人タクシーなので定年はなくギリギリまで仕事を続けてきたとのこと。車で子どもを育てあげ、家族を養ってきた彼にとって、車は人生そのものであり、もはや体の一部。そんな彼から免許を取り上げるのですから至難の業だったでしょう。余談ですが、その男性、よっぽど運転が好きなのか、晩年は、車がダメならせめて電動車イスを運転したいと家族に懇願したそうですが、主治医からのダメ出しで、渋々断念されたそうです。

 そんなお話を聞き、職業ドライバー、例えばタクシーやトラック運転手など、運転を生業にしてきた高齢者の免許返納問題は、家族内の私的な問題にとどめず、会社や業界、労働組合などが組織の課題として位置づけるべきだと思いました。免許証に代わる公的な身分証明が発行されるにしても、返納の決断には相応の勇気がいります。専門の医療機関や社会福祉法人などと連携し、在職中から「引き際」講習や「返納自己チェック」を行うなど組織的・社会的に対応していくことも大切だなぁと感じます。

 現在、日本の運転免許保有者数は約8220万人。うち65歳以上は22%を占め、今年3月から75以上の人(約6%)は免許更新時に認知機能検査が義務付けられました。人生100年時代と言われていますが、これからは、車で出かけなくても身近で居場所が確保でき、徒歩・自転車圏内で趣味が十分に楽しめる超コンパクトシティなまちづくりや、遠出の時には、近所の高齢者でカーシェアリングされたAI搭載の自動運転自動車がメンバーを目的地まで移送するハイテクノロジーな社会づくりが求められる時代が来るかもしれません。ところであなた、免許返納プランは、もうできていますか?