シングル、ダブル、トリプルの次はクアドラプル、5つをクインティプルと言うそうですが、来年2018年度は、私たち社会福祉法人にとって、また貧者の街・西成にとってたいへん重要なクインティプル改訂の年となります。①医療保険制度(2年ごと)、②介護保険制度(3年ごと)、③障害福祉サービス制度(3年ごと)、④生活困窮者支援制度(3年後見直し)、⑤生活保護制度(5年ごと)で、計算が正しければ、5つの同時改定は30年に1度の希少ものです。年末の予算編成にむけて改訂議論は佳境を迎えていきますが、中でも、生活保護の改訂は、その影響が大きく、心配が募ります。
生活保護改訂の本丸は、医療扶助の抑制ですが、級地変更を通じた生活扶助の抑制も俎上にのせられています。級地とは、地域間の物価等の差異を保護基準額に反映させるもので、全部で6級地(段階)あり、例えば、東京と沖縄では、保護費に違いがあるということです。現在、大阪市は、最高ランクの級地なのですが、これが実態にあわないらしく、級地の格下げを行うというのです。級地が下がると、保護費は減ります。保護費が減るので受給者の生活は圧迫され、今まで以上に生活が苦しくなるのは当然ですが、生活保護制度の場合、それだけで話は収まらないところが、やっかいなのです。
「風吹けば、桶屋がもうかる」という6連鎖の話は有名ですが、生活保護基準が下がると、受給者以外、特に低所得者の生活に負の連鎖を引き起こします。それは、社会サービスの対象判定や利用負担額の算定等において、生活保護が基準値として位置づけられているからです。例えば、保護基準が下がると市営住宅の減免家賃は変更され、住宅家賃が値上げになります。また、住民税の課税世帯が増えるので増税となり、そのことで介護分野では保険料や利用料の負担が増え、医療分野では高額医療費の負担増となる人が増えます。雇用の最低賃金制度もそうです。ここ数年はずっと上昇していますが、保護費が減るとそれは鈍化し、低所得労働者の滞留は継続するでしょう。子育て関係では、学用品購入などの経済支援が受けられる就学援助制度を利用できなくなる世帯が増えます。そうなると、風吹けば‥式に言えば、「生活保護の級地変更で、修学旅行がしらける」連鎖が起こります(わかるでしょうか?)。
国は、我が事・丸ごとを合言葉に、地域共生社会を創ろうという議論をしています。特に「丸ごと」は、行政の縦割りの弊害をなくし、輻輳する市民ニーズに横割りで対応するシステムを創ろうというものですが、足元のクインティプル改訂の議論はてんでバラバラ、「丸ごと」が聞いてあきれます。今回の改訂は、生活困窮者制度を除き、すべてマイナス改定の見通しなので、大阪、西成に激震が走るかもしれません。どうにか来年のクインティプル改訂に、グサッと横串を刺す政治家や学者が登場し、総合的・包括的な議論を進めてくれないかなぁと願いつつ、焦燥と諦観を繰り返している今日この頃です。