ここ数年、介護保険財政の膨張を抑える1つとして、いわゆる「軽度者」対策が実行されています。最近では、介護度が要支援の人が利用するホームヘルプサービスとデイサービスの保険はずしが決まり来年度から市町村事業への移管が全国で始まります。市町村事業では、事業者への報酬が2~3割程度減額されるため、とても採算があわないと、参入を見送る事業者も出てきているようです。
そして今秋、要介護1・2の人が利用するホームヘルプサービスの家事援助を保険からはずして、市町村事業に移管させる、との既定方針が提案されたのですが、最近、これがブレはじめています。どうやら当面は保険に残すことになりそうなのです。方針提案後、「保険あって給付なし」と各方面からの反対意見が噴出したことや次期衆院選を意識したのかもしれません。ただし、事業者への報酬を2割程度削減する方針は堅持されています。すると今度は、この修正に反対する意見が出てきています。
家事援助を保険に残しても肝心の報酬が減額されるなら、介護職員の給与相場はやがて低下し、そのことでさらに業界の人手不足に拍車がかかり、サービスを利用できない介護難民が増える危惧がある。ひいては介護離職にも拍車がかかり、安倍内閣方針と矛盾するという意見です。逆に、当初方針通り、家事援助を保険からはずせば、現場は対象を中重度者にシフトするので、結果として報酬単価(収入)がアップし、これにより介護職員の給与も上がり、人手も確保しやすくなる。保険からはずれた家事援助は、これを担う新たな事業者や雇用が創出されるので経済成長にもつながる。この両者により全体としてはサービス提供量が増え、介護難民も生まれない。だから家事援助は保険からはずすべきだという主張です。当事者不在の議論は気にかかりますが、確かに、過酷な人材不足の中で、ケアの専門職が家事援助のみの仕事を担うのは非効率だという面もあるでしょう。増加する介護需要に対して、少ない専門職を効率的に配置するには、業務を認知症の人や中重度者支援に重点化すべきかもしれません。
しかしいずれの主張も、今の介護保険財政は危機的だということが前提であり、少ない予算をめぐるイス取りゲームのような議論にも思えます。否、そもそも日本の介護予算は国際的にみても低すぎるのです。人口減少と未曽有の高齢化の現実を前にして、他の支出を削って介護予算を確保するといった単純な分配議論だけでは不十分で、昨今の負担増と受益の切り下げ競争的な低位均衡政策は、社会を疲弊させ市民間の相互不信を増幅させるだけです。私は変化を恐れず、①行政施策に内在する選別主義や補足性の原理、劣等処遇原則を放棄し、②中間層を含め、すべての人が必要な社会サービスを無料かつ現物給付型で利用できる社会をつくる、③そのために政治決断で消費税を増税し、④市民の協働連帯に根ざした新しい「分かち合い社会」の創造に活路を見出す、それしか道はないと感じる今日この頃です。