先月、相模原市で残忍な障害者大量殺傷事件が起きました。被害者のご冥福と一日も早いケガの回復を祈るばかりです。心配は、政治もマスコミも一斉に容疑者の措置入院の履歴にコミットし、あたかも事件の原因が精神障害と関係するかのように扱う推断が始まっていることです。これでは自殺者まで出した2001年の池田小事件の偏狭ぶりと同じです。池田小事件では、事後の裁判で犯人は詐病だとわかり、政治やマスコミは猛省を迫られましたが、学習されたのでしょうか。そもそも、殺人予告に対して事情聴取や捜査でなく措置入院という初動が適切だったのかが問われるべきで、これを放置すれば、今後の対応が精神障害者の監視や福祉施設の多層防御(閉鎖性向上)といった愚策に進みかねません。
今回の事件は、その準備性や計画性、実行後の出頭などから、犯行はかなりの確信犯で、本質は「優生思想×自己中心性全能感×薬物=障害者ヘイトクライム」の方程式があてはまると私は見ています。犯行は凄惨ですが「障害者なんかいなくなればいい」という彼のゆがんだ確信は、決して特別なものではありません。日本社会に巣くう優生思想や障害者差別意識の氷山の一角であり、社会が生み出した凶悪な魔物だと捉える必要があるでしょう。彼は現場の施設をクビになり、犯行時は無職だったようですが、疎外感をもった者がその代償行動として排斥すべき対象を求める心理とも似ていて、その意味で、英国のEU離脱、米国トランプ旋風の、あの背景に潜んでいるものと同根のような気がしています。
魔物を生み出す日本の優生思想や差別の実態は深刻です。今回でも、家族の要望等により、被害者の実名は報道されていません。理由は、家族に障害者がいることが知られると身内の結婚に悪影響が出そうな不安などがあるようで、家族が匿名を選ばざるを得ない差別社会の存在を示しています。今年4月には、新型出生前診断の実績報道がありましたが、3年間で2万7696人が検査を受け、異常ありとされた346人のうち97%が中絶を選択したそうです。母体保護の面だけでなく、出産後に想定される苦難が、両親に中絶という辛い選択を余儀なくさせているのでしょう。他にも、地域住民らによる福祉施設建設反対運動は日常茶飯事だし、ネット上では、隠語満載の陰湿な差別談義が横行しています。
おりしも本年は、障害者差別解消法の元年です。2020年には東京パラリンピックがあり、多くの障害者や関係者が来日します。魔物を生み出した日本をどう変えていくのか。医療目的の措置入院を治安維持装置にするかのような監視政策は無意味です。まずは、私たち一人ひとりが自らの理性・知性・感性を駆使して、内なる優生思想や差別意識を統治し直すべきでしょう。政治的には、救済など障害者差別解消法の強化や共生社会を創る新しい施策を求め、地域では、事件を凌駕する圧倒的な活動量で、合理的配慮をはじめとするインクルーシブ社会の実現に、歩みを重ねる以外ないと痛感しています。