今月初め、全国の生活保護調査の発表があり、保護率は続伸、高齢世帯が初の半数越えと報道されていました。これまでにも何度か触れていますが、西成区は被保護者が多住する街で「生保市場」とも言うべき経済特性が街を包み込んでいます。人口11.8万人中、被保護者は2.8万人で、保護率は23.8%と突出し(大阪市5.6%、全国1.7%)、年間636億円もの保護費が毎年西成区に投入されています(市全体の22%)。被保護者のうち85%は単身、76%は60歳以上の高齢者で、高齢者人口を母数にすると保護率は37%。高齢者の5人に2人は生活保護で生計をたてています。
ご承知の通り、今の生活保護制度は、多くの課題を抱えています。特に、私が気になるのが、法理念でもある最低生活保障の原理が、戦前から引き継がれたスティグマ意識にからめとられて、劣等処遇の原則、つまり「贅沢は許しません」という不文律として今も厳然と続いていることです。昔は、冷蔵庫やクーラーが贅沢品で購入不可、最近の例では携帯電話がそうでした。聞きかじりですが、贅沢が否かの判断基準は普及率のようで、市民の8割以上に普及していれば、概ねOKなのだそうです。
この劣等処遇の原則で、私たちが困っていることは、被保護者は特別養護老人ホームの個室に入れないという問題です。個室は贅沢なのです。しかし、多床室のある既存の特養は満杯で、しかも待機者がズラリ。大阪市内で新たにできる特養は全部個室なので、被保護者が特養を希望しても実質上、入居することができません。一方、サ高住なら個室でもOKなのです。同じ介護度なら特養でもサ高住でも生活保護の介護扶助額は同じで、生活扶助費分を考えると、サ高住の方が保護費は高くつくので財政的にはナンセンスなのにです。病院と違い、特養は実質的には住まいです。人によっては10年以上も暮らす場所なので、個室が普通だと思うのは贅沢なのでしょうか。サ高住との財政面の優位性も考え合わせると、個室不可は、やはり合理性なき劣等処遇そのものです。もしかすると、個室普及率が8割になるまで我慢せよ、ということなのかもしれません。大阪市内に1.3万床ある特養のベッド割合は、個室3:多床室7なので、個室の8割普及には相当の年月が必要で、もしそうなら、むごい話です。
貧困の世代間連鎖の防止を目的に、被保護世帯で贅沢とされていた大学進学を認め、奨学金を収入認定から外したように、個々の介護度や家族構成、住環境面や周辺の特養多床室の満床状況を勘案するなどして、ぜひ被保護者の特養個室入居を認めるよう政策変更をしてもらいたいものです。そもそも、就労自立の困難な高齢の被保護者に、就労自活する非保護者とのバランス保持を旨とした救貧時代の劣等処遇の原則を適用するのはおかしいのです。今般の保護率続伸、高齢者半数越えの知らせは、生活保護制度とは別建ての、新しい高齢者所得保障政策を創設する時の到来を告げる警鐘なのかもしれません。