福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

西成でホルモンをつくる


 今号は、人の幸福という深~いテーマについて、軽~いノリで書いてみたいと思います。私は、かねてより、社会福祉は、単に憲法25条の最低生活の保障ではなく、むしろ第13条の幸福追求に関わる活動だと考えてきました。普段はスタッフに、食事や排せつ、入浴等のケアは仕事の手段であって、目標は、エンパワーメント支援等を通じた一人一人の自己実現(幸せづくり)なんだと話しています。そんなこともあり、当法人にとって幸福というテーマは、とても大切なキーワードなんですが、実は、この幸福に関して、最近、脳科学の分野がすさまじく発展していることをご存知だったでしょうか。

 これまで、人の幸福と言えば、哲学者や宗教者、ミュージシャン等の文化人が語るもの、と相場が決まっていました。ところが近年は、脳科学の進歩で、幸福を科学的に捉えることができるようになってきたというのです。人が幸福を感じる時は、脳内のセレトニンやドーパミンというホルモン物質の働きが関係していて、これらを画像で見たり、計測する技術や機械が開発されたのです。人はどんな行動や体験をすれば、幸せホルモンが活性化するのか。多くの調査や実験が繰り返され、脳内の幸せホルモンを活性化させるには、万国共通、次の3つの行動や体験が重要だということがわかってきたようです。

 1つ目は、人と交わっている時、2つ目は、人に親切な行動をした時、3つ目は、自分が何かに集中・没頭している時だそうです。ちなみに「働く」はこの3要素を内包する代表例でしょう。1つ目の人との交わり、交流は、いわゆる人見知りの人にもあてはまるそうです。やはり人は、人との結びつきを通じて幸福を感じるのでしょうか。2つ目の人への親切は、ボランティア活動が典型です。ボランティアは、されるよりする方が幸せということなのでしょう。そして、3つ目の集中・没頭に関する典型は、趣味です。時を忘れるほどに、好きなことや得意なことを楽しむということで、心理学で言えばフローの体験でしょう。「交流・親切・趣味」という脳科学が発見した幸福の3要素を知った時、私は思わず大きく何度も頷きました。というのも、この発見は、法人が掲げる「居場所と出番づくり」というミッションのエビデンスとなり、その有意性を、脳科学の視点からも裏付けるものだと感じたからです。

 さて、いよいよこの4月から西成発で日本初、民設置民営型の隣保館「スマイルゆ~とあい」が本格稼働します。この館が住民の幸せホルモンのインキュベート工場になるためには、幸福の3要素が事業展開の重要なキーになると確信しています。西成を席巻する「無縁・無情・無精」の無の連鎖を「交流・親切・趣味」で封じ込める、そんな新しいソーシャル・アクションの拠点として隣保館を機能させるのです。事業の成果指標は、愛称にちなんで「スマイル数」でしょうか。私たち福祉法人も第2種社会福祉事業の隣保事業を始める気概でポジションどりし、パートナーシップを発揮したいと思います。