福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

居住福祉でまちづくり


 地域包括ケア時代の重要な社会資源でもあるサービス付高齢者住宅(サ高住)30戸を大阪市内に新築するお話です。まず、土地500㎡を単価15万円で購入。建築面積は延960㎡で工事単価を28万円と見込みます。建設資金は全額金融機関からの借入で、金利は2%、20年の元利均等返済の予定です。空室率は2割に設定、もろもろの経費を考慮し、最低条件となる損益分岐収入を算出すると月額9万3000円(共益費込)となります。もちろん社会福祉法人なので課税関連費用は除外しました。

 ところが、建設予定地は西成区で低所得世帯が多く、高齢者世帯の約半数が生活保護世帯。とても月9万3000円は負担できません。そこで事業計画の練り直し。低利・長期の資金調達先の確保、稼働率の改善、家賃設計の見直し、管理費の縮減などあらゆる知恵を絞りだし、何とか損益分岐収入を月額6万4000円に設定(標準家賃:5万6000円、共益費:8000円)。入居者の5割を生活保護世帯と見込み、新設した応能型法人減免家賃(月額4万2000円)を適用すれば、何とかギリギリ事業が回りそうな気配。ただし、利益ゼロ、稼働率が予定を下回れば即刻赤字転落です。そんな危険を冒していいのか、低利・長期で協力してくれる銀行はあるのか、稼働率の見込みが甘い…。暖かいご指導・ご心配はごもっとも。しかし、そこは世のため人のため、街のためにはハラを決め、良質・安心住宅の供給に挑戦しなければなりません。それが、大阪市で最も高齢化と単身化が進む街、国が指定する老朽狭小住宅密集地区、貧困・生活保護世帯多住地域、日本でも有数の短命地域などの困難が重なり合った西成区に基盤を置く私たちの運命であり、求められるレジリエンスであり、担うべき覚悟だからです。

 ところがです。大阪ではこの7月から生活保護の住宅扶助費が2000円も減額され、月額4万円になるというのです。これは大変です。ただでなくても薄氷を踏む状態なのに、これでは西成で新築サ高住事業は成立しなくなります。では、どうなるか。手抜き工事、医療・介護収入をあてにした悪質・巧妙な囲い込み、生活保護お断り、そもそも西成での事業を避けるなど様々な問題を生じさせます。じゃあ低価格で暮らせる特別養護老人ホームへといっても待機者だらけ。介護度が3以上でないと利用できないし、今後、新設の特養は個室が前提。劣等処遇原則の生活保護世帯は実質的に入居できません。

 一般論を書いたのではありません。実はこの年末に当法人として33室のサ高住事業を西成でスタートさせることになっているのです。今回の事態を乗り越え、事業を成功させるために、ND思考、すなわち、N=何かできるか、D=どうすればできるか、と悪戦苦闘する一方、そもそも都市部では低所得世帯と新築サ高住はミスマッチだと達観しはじめています。最近、低所得高齢者向けの住まいとして広がりつつあるのが、空き家や廃校を活用したサ高住です。「地域善隣事業」とも呼ばれ、これなら家賃も低く設定できそうです。課題は多いものの、西成にとってたいへん可能性のある有望な事業だと関心を持ってみてきましたが、モニターを終え、具体的な計画に入ろうかなと、ND思考を始めています。