今月17日は、大阪市廃止の是非を問う住民投票の投票日です。私は、以前の小欄で「地方主権の潮流に逆行する」「目的や内容がよくわからない」「成功率や副作用の不明な手術は受けるべきでない」と、「反対」の意見を述べました。続いて今号も、ガラパゴス&アナクロニズムな都構想について。
都構想に賛成か反対かを決める基準として、住民サービスがよくなるのかどうか、に関心が集まっています。市が主催する説明会でこの質問が出ると、担当者は「どういう行政サービスを行うかは、選挙で選ばれた区長や区議さんを中心に話し合いで決めるので、区ごとに特色が出る」とのこと。常識的にも財政的にも、すべての住民サービスが良くなることはありえませんが、私は、こんなやりとりを見ていて、ふと、学生時代に学んだ「シビルミニマム」のことを思い出しました。
シビルミニマムとは、地域社会において自治体が住民に保障しなければならない最低限度の生活水準のこと。地域ごとに特色ある住民サービスをすればいいという都構想は、一見、聞こえはいいですが、逆に言えば、住民サービスが区ごとでバラバラとなり、これまでの大阪市としてのシビルミニマムは崩壊する危険性が極めて高いということです。しかも、厳しい財政状況の中、サービスを話し合いで決めるとなると、半ば財源争奪の椅子取りゲームです。これでは多数者や大きい声の人の意見が採用され、少数者や声なき声が無視される排除社会の再来です。私は、高齢者ケアや障害者支援、児童福祉や教育政策、人権政策などは明らかにシビルミニマム行政であり、どこの区に住んでも公平に扱われるべき行政だと思いますが、都構想ではとうてい無理なのです。ちなみに、東京では、低所得対策の就学援助制度が区ごとに違うので、利用しやすい区に低所得階層が集住すると聞きます。1事例ですが、行政サービスの「特色」によって、富める区と貧しい区が分かれていくことは本当にいいことなのでしょうか。
他にも疑念があります。それは、これまで大阪市が独自財源で実施してきた先進的な市民サービスや上乗せ横だしの充実したサービスが、なくなる恐れがあるということです。都構想では特別区の自主財源が大変少なくなるので、これを機に独自サービスの廃止を決める区が続出する可能性は大きく、もしそうなれば大阪市の個性と先進の喪失です。また、こうした独自サービスは、長年の市民運動や社会運動の成果・結晶でもあり、これがなくなれば、特にマイノリティ運動は大打撃を受けるでしょう。
2重行政のムダ解消には賛成です。大阪市が今のままでいいとも思いませんが、何も市をなくす必要はありません。大阪の人口は減り続けています。こんな時に成長と安定のエンジンである市を解体し、小さな特別区に変えることが、大阪の将来のためになるのでしょうか。成長戦略はおろか、下手をすれば大阪全体が底抜けしかねない大バクチです。イチかバチかは無責任。だから17日は「反対」です。