略称SIB、「ソーシャル・インパクト・ボンド」に注目しています。2013年のG8サミットのサイドイベントとしても話題となり、先日は新聞でも紹介されていました。児童虐待や犯罪、失業や貧困、社会的排除や差別等の社会問題の解決をSIBというスキームで取り組む新たな潮流です。近年、社会問題の解決は、行政が民間事業体を公募・選定し、委託料を払って行うスタイルが一般的ですが、一方では、厳しい予算制約の中で、思うような事業展開が十分にできない現実も存在しています。そんな背景もあり、米国生まれ、英国育ちのSIBという事業スキームが世界的に注目されているのです。
まず、プレイヤーは6人。基本スキームは、投資家(①)から資金援助を受けた民間事業体(②)が課題を抱えた市民(③)に行政サービスを提供する。終了後、同事業による社会的成果を行政(④)が税で買い取る。代金は、元金の返還とリターンの還元という形で投資家に支払われる。社会的成果の評価は中立の専門機関(⑤)が客観・公正に行う。中間支援組織(⑥)が投資家・民間事業体・行政・評価機関の間を取り持つ。そんな感じです。行政が社会的成果を買う、という発想が何とも斬新で、このスキームの最大の肝は、購入価格、つまり、社会的成果の効果測定とその信頼度にかかっています。
例えば、児童虐待が減少したという成果は、将来にわたり、社会にどのくらいの経済的効果をもたらすのかを計算するのです。再犯率が下がる、失業者が減る、健康寿命が伸びるなどの成果を貨幣価値換算するのですが、これも「SROI(社会的投資収益率)」という計算手法や専門機関が整備されつつあります。貨幣価値換算できない成果はどうなるのかと気にはなりますが、ひとまずは、おいておきます。SIBは、すでに日本でも尼崎市と横須賀市でモデル的に実証事業が始まっていて、日本財団が中間支援役を担っています。また、投資セクターとして「休眠口座」の活用も検討しているようです。
昨今、社会的企業の存在に注目が集まっていますが、SIBは、寄付でもなく従来型投資でもない、社会問題の解決を金融商品化させて社会的投資を促す実践で、社会的金融(融資)と並んで、しっかりとモニターしておく必要があると感じています。今年、私たちは、法人ミッションの具体化や地域・社会貢献の一環として就職困難者のためのハイブリットな就労支援機関を設立する計画を進めています。また、年末には全国初となる民設置民営型の西成隣保館がオープンし、貧困や孤立、排除をなくす事業がスタートします。こうした活動は、多くの社会的成果を生み出す事業だと思うのですが、孤軍奮闘、先立つものが乏しいのも現実。そこで、SIBブームに便乗し、こうした事業の成果を行政が買い取ってくれるスキームがつくれないか、一度、関係者とよく話し合ってみる価値があるかもしれないと感じています。投資家探しも一苦労ですが、もし実現すれば、世間(⑦)を加えて、「七方よし」です。