福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

複眼的考動の薦め


 ここ数年、社会福祉や医療をとりまく環境が激しく変化しています。次々に新しい政策が出され、こんな時こそ、迷子にならないように、しっかりとした情勢認識と交通整理が必要です。そこで、今号では、有名な「鳥・虫・魚」の3つの観点から、そのあたりを整理してみたいと思います。

 まずは鳥の観点です。これは、問題を広範囲に高いところから俯瞰的に観るイメージで、鳥瞰とも呼ばれ大局観を捉えます。人口減少と少子高齢化、生涯未婚率の上昇と単身世帯の増加、貧困・格差と排除・孤立の蔓延。そんな時代における福祉や医療はどうあるべきか。また、住まいをベースに生活・介護、医療・看護、予防をパッケージする地域包括ケアの社会をいかに創造するかが問われています。高齢者を支える現役人口が減少する肩車社会の中、団塊の世代が一気に高齢化する問題が指摘されていますが、実は、団塊ジュニアが高齢化した時の方が相当事態は深刻だということも確認が必要です。

 次は虫の観点です。これは、現場を観るミクロな視点であり、部分を深掘りするイメージです。福祉の今を虫の観点でみた時、最も旬なテーマは、今月発表された介護と障害福祉サービスの報酬改定でしょう。国は、この報酬の単価や加算の修正などを通じて現場を政策誘導しています。つまり、報酬内容をみれば、国や社会が何を考えているかがわかるのです。介護は準市場とか社会市場と呼ばれる制度ビジネスなので、報酬単価の改定や制度・基準の変更が現場の実践に大きな影響を与えます。今回改定のポイントは、基本報酬の大幅引き下げと重度・看取り・認知症ケアへの評価の重点化(微増)です。

 3つ目は魚の観点です。これは、流れや潮目を読む、トレンドや変化を嗅ぎ取るといったイメージです。社会福祉法人への非課税措置の見直し、統治機構や情報公開の強化、いわゆる内部留保の明確化、社会貢献の義務化などの法人制度改革、国家戦略に格上げされた認知症対策、地域における医療と介護サービスの一元化、国民健康保険の都道府県への移管、府県医療計画の策定と急性期病院の縮減、障害者政策の医療モデルから社会モデルへの転換、生活困窮者支援の強化。そして、2018年度の医療・介護報酬の同時改定を通じた医療・介護サービスのさらなる重点化あたりも観ておく必要があります。

 鳥の観点はマネジメント、虫の観点は現場感覚、魚の観点は経営感覚と言われ、各自の置かれた立場などにより対象は変化します。また、3つは統一的・一体的処理が原則で、そうでないと全体最適な方針の確立や的確な経営判断はできないでしょう。ちなみに、今月の私は、改定されたサービス報酬が相当な減額となったので、どうしても虫の観点が支配的になりがちです。しかし、こういう時こそ、法人の創業精神に立脚し、社会の地図を大きく広げて鳥瞰し、シャープな魚眼で海中を遊泳するゆとりを持つことが虫メガネを曇らせない大切な時間なんだと、密かに自分に言い聞かせている今日この頃です。