一般の企業でも取り入れられていますが、組織の中でキャリアを積んでいくためには、WANT(やりたいこと)、CAN(できること)、MUST(やらなければならないこと)の3つを見極め、これらをできるだけ統一させることが重要だという考え方があります。社会福祉法人などの公益的な分野、社会的企業や社会運動、労働運動等のミッション性が重視される分野では、特にMUST(組織のWANT)が第一義です。自分のWANTだけ、CANだけなら、それは、自己満足、趣味・サークル活動の世界です。また、WANT×CANだけなら、時代に取り残され、メンバーはサラリーマン化し、しだいに組織は死に至るでしょう。かの第二次大戦の「失敗の本質」にも通底しますが、組織の持続的発展のためには、過去の成功体験や常識・慣習にとらわれず、自分たちは社会からどんな役割が求められているのかを常に見極め、それらをメンバーが自分のWANTとして担っていくことが大切なのです。
当法人では、来年度に向けて新たな中期経営計画の策定議論を始めました。中でも人材戦略は、第1級の最重点課題です。事業は「ヒト、モノ、カネ」と言われますが、福祉は「ヒト、ヒト、ヒト」なのです。ミッションに裏打ちされた組織のWANT(MUST)を理解し、それに各自のWANTとCANを重ね合わせ、最大級のパフォーマンスが発揮できるような現場をつくるための戦略です。「MUST×WANT×CAN≒HAPPY(楽しい)」です。そんなことは夢物語だと諸先輩にお叱りをうけるかもしれませんが、あえてこだわりたいのです。先頃、サラリーマン化する警察官のお話をお聞きする機会があり、ますますそう思うようになりました。時代の変化の中で、サラリーマン化する医師、教師、弁護士、消防士などが増えています。もしかするとサラリーマン政治家や9時5時社会運動家が増えているかもしれないし、残念ですが、福祉士や介護士もすでにサラリーマン化していると考えるべきでしょう。これがこのまま続くと、福祉や介護に対する社会的評価は、上がるはずがありません。
福祉業界はいま、人材争奪戦の様相を呈しています。国では福祉法人の離職率を公表する議論を始めていますが、当法人では、新しいWANTがたくさんあるのに、思うように人材が集まりません。処遇改善といっても収入は公定統一価格なので自由度は相当低いのです。だから愚直に、法人のミッションを高く掲げ、組織のWANTやセンスのいいグッジョブを発信し続ける王道を歩むほかありません。希望は、オーナーシップ精神にあふれ、仕事への姿勢は、義務感でなく使命感な人材がいい。そして、利用者はもちろんのこと、職員も組織も、それぞれが自己実現していける現場を創りたい。「思考は現実化する」と言われますが、逆に思考しないと現実化はしません。人材戦略の成否はトップの責任です。
責任とは、言い訳をしないこと、ですが、できれば愚痴もこぼさないようにしていきたいと思います。