当法人では、今年4月から地元のクリニックと経営統合し、「無料低額診療事業」を始めました。この事業は現在、府内60数ヶ所でしか実施されておらず、社会福祉法人に限ると13法人で20ヶ所と超レアな状況です(府内福祉法人数は約1170)。しかし、生計困難者はもとより、昨今の医療財政から考えると、診療費の自己負担は今後ますます増大していく見通しで、経済的理由で受診控えが起らないよう、一時的・短期的ですが、医療費の自己負担を減免する本事業の価値は高いと思うのです。
ましてや西成では貧困や格差の問題が深刻です。高齢者をはじめ、子育て世帯、ひとり親世帯、単身若年者(特に女性は顕在化しにくい)など世代を超えて広がっています。こうした貧困や格差問題解決の本流は、もちろん就労支援ですが、なかなか一足飛びにはいきません。その間、せめて病気になった時くらいはお金のことを心配しないで、安心して医療が受けられる環境を地域に整備しておくことはとても大切なことだと考えたのです。また、先ごろ医療介護総合確保推進法が制定されましたが、経営統合により、西成版地域包括ケアシステム確立に向けて医療・介護・生活支援の一体的な提供が可能となりますし、密かに「短命日本一西成区」の汚名返上に少しでも貢献できればなぁとも考えています。
減免と併せ、日常的にはクリニックにMSWという専任者を配置して健康福祉相談を行ったり、健康教室などの開催を通じて、総合的に住民の健康づくりを応援していきます。健康福祉相談は、医療費問題だけでなく、病院退院後の地域での生活支援や、要介護ならケアプランの作成を支援するなど、各種の問題に対応します。健康教室は学習だけでなく、当事者に集まってもらい、同じ病気で苦しむ人たちの活動も作っていきたいと考えています。断酒会の活動は有名ですが、さまざまな難病患者の集まりやニコチン依存症克服(禁煙)に取り組む活動、生活習慣病の人たちによる食生活改善の取り組みなど、特色あるセルフヘルプ活動ができれば、治療と同じくらいの効果や価値が生まれると期待しています。
課題もあります。医療費減免は当クリニックでの診療しか対象にならないことです。内科、小児科、泌尿器科に加え、今年度から新たに整形外科、リハビリテーション科、精神科も診療できる体制を整えましたが、歯科など診療科がないものは減免できません。健診や予防接種等の保険外診療や、院外処方なので薬代も対象外です。何とかこうした問題を1つ1つクリアーして、安心医療を広げたい。そしていずれは、介護の自己負担を減免する「無料低額介護事業」の実現へも挑戦したいと考えています。
私たちは「介護福祉」法人ではなく「社会福祉」法人です。高齢者や障害者の医療や介護問題だけでなく、貧困や格差、孤立や自死、住宅困窮問題など、地域が抱える諸問題と呼吸を合わせながら事業を組み立てる。そもそもそれが「地域立」社会福祉法人の本分であり、私の美意識でもあるのです。