CSRなど企業の社会貢献活動が本格化してずいぶん経ちました。でも私は、何となく「義務的、とってつけた、自己満足的」な面を感じてしまい、正直、あまり関心をもてませんでした。ところが、先日、某企業総研の調査報告書を見て大変驚きました。今、企業における社会貢献活動の最先端は、かのマイケル・E・ポーターによって提唱されたCSV」という概念で、活発に進められていたのです。報告書では10企業の事例が紹介されているのですが、CSVは「共通価値の創造(Creating Shared Value)」と呼ばれ、ビジネスを通じて社会的価値を創造しながら同時に経済的価値も創造する事業戦略です。CSVでは、社会ニーズへの対応が「貢献」や「責任」ではなく、「成長の機会」と位置づけられ、競争力強化も重視されています。ちょっと難しいですが、つづめれば、本業で社会問題解決に役割を果たし、一方で、しっかりと利益も出すということです。従来のCSRとはかなり違う気がします。
CSV活動は、巷で評判の社会的企業ともニュアンスが違います。もっと骨太、構造的で広範囲、そんな印象です。この報告書には、厚労省のセーフティネット支援対策補助金(社会福祉推進事業分)と いう福祉財源が充てられていることにも驚きました。最近、私がハッとしたCSVの具体事例は、ノンアルコールビール事業の取り組みです。飲酒運転撲滅やアルコール依存症克服支援などの社会的価値の創造と企業の競争力強化、経済的価値の創造の両方を見事に実現されているのです。
さて先般、国は、社会福祉法人に対して、法律で社会貢献活動を義務付ける方針を固めたようです。 CSVと比べると、何ともレベルの低い情けない話です。優遇税制継続、福祉法人独占の老人ホーム経営を株式会社に解禁する規制緩和を見送った政治バーターだと、うがった見方もしています。法律による義務化の是非や実現可能性はさておき、この際なので、これを契機に全国に2万ある福祉法人が社会貢献を競い合うようになっていけばいいなぁと思います。企業のCSVに追いつけ、追い越せです。
当法人では以前から「地域福祉積立金」を創り、わずかですが制度の隙間や各種の福祉課題に対応する活動を進めてきました。今は、住民が自分たちの居場所と出番を地域で創造していく「ボランティア・マイレージ活動」を企画したり、既存の福祉減免制度に加えて、無料低額医療制度の福祉版のような「無料低額福祉事業」の実現可能性を追いかけたり、失業率ではなく、就業率を指標とした社会づくりをめざす「フル就業サポート制度」の企画も始めました。企業が「社会と経済」の共通価値を創造するなら、私たちは「人と地域」の共通価値の創造にポジションを取ろうということです。そしていつかは経済(企業)と福祉(公益法人)が、両側から社会の難問解決にチャレンジする。そんな時代が実現すればいいなぁと思います。切磋琢磨、役割分担、協働のキーワードが浮かんできます。