介護保険制度改定の1つとして、国は、特別養護老人ホーム(以下、特養)の利用を介護度3~5の高齢者に限定する方針を示しました。これに対して各方面から賛否の声が上がっていますが、地域包括ケアと在宅福祉の重点化、待機者問題、財政問題など、さまざまな観点から導きだした結果なのでしょう。しかし、利用制限は、サービスの自己選択・自己決定という保険制度の根幹に関わる問題だけに慎重な議論を必要とすることは言うまでもありません。一方で、介護保険財政の膨張は、結果として保険料や利用者負担金の値上げを引き起こします。関係業界は、在宅で虐待を受けた高齢者が緊急避難入所するなど特養のセーフティネット機能の実例を示しながら、慎重な議論を促しています。
そんなやり取りを見ていると、ふと、介護保険法制定の頃を思い出したのです。当時、私たちは制度導入に伴う多くの心配事の中から、①生活支援型食事サービスを介護保険に位置づけること、②要介護認定にあたっては、住宅事情を考慮することの2点について、国へ申し入れをしていたのです。結果は2つとも実現しなかったのですが、食事サービスは地域密着型事業として補助制度が組まれました。しかし、住宅の方はケンモホロロな顛末で、以来、問題はずっとくすぶったままになっています。
例えば、同じ介護度4のカメさんとツルさんがいて、カメさんはエレベーター、手すり付、段差なしの高級住宅に、ツルさんは老朽アパートの2階、四畳半一間、共同トイレ、共同台所の文化住宅に住んでいる。この2人に外出介護を行う場合、高級住宅のカメさんにはヘルパー1人で対応可能ですが、文化住宅のツルさんの場合は2人必要になり、同じサービスなのに、ツルさんは倍の費用を支払わなければならない矛盾が起こるのです。
私たちの活動フィールドである西成は、国が指定する老朽住宅密集市街地といって、阪神大震災、東日本大震災はもとより、予想される南海トラフ地震が起こればひとたまりもない災害無防備地域です。狭隘道路に老朽狭小木造住宅がひしめきあい、最低生活居住水準未満の住宅は全体の37%を超えています(大阪市15%、国7%)。今回の利用制限措置で、住宅事情に困難を抱える高齢者が介護難民になることは許されません。幸い、国の検討会では、虐待等、制限の例外を考える場合は、住宅問題もセットで検討すべきという趣旨の発言をされている方がおられ、すこしホッとしています。
そもそもこうした問題が起こるのは、今の介護認定制度が、医療モデル、すなわち病気や障害の状況に焦点を当てすぎているからなのです。本当は住宅事情を含む社会生活機能全般へ着目したICF(国際生活機能分類)モデルをベースにした認定制度に転換すべきなのです。とは言うものの、現場では密集市街地問題が続いている訳で、ナンダカナ~ですが、介護度3未満の高齢者の住まいの受け皿づくりを考え始めています。