福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

生活保護問題、二兎を追う努力を


 ミーンズテストってご存知でしょうか。初耳、という方もおられるかもしれませんが、生活保護制度では古くから使われている言葉で、ミーンズは財力、ミーンズテストは一般に資産調査と訳されます。生活保護には利用しうる資産、能力等のすべてを活用しても生活できない場合に限り制度を適用するルールがあり、この資産の有無を行政権限で調べるのがミーンズテストです。資産には日常の所得だけでなく、土地・建物等のストック資産や金融機関に対する預貯金等の調査権限も与えられています。

 さらに、生活保護の開始にあたっては扶養義務照会という審査手続きがあります。申請者の3親等以内の親族に「身内なんだから助けてあげてくれませんか」と照会をかけ、「ムリムリムリ」となった場合を生活保護の要件とするルールです。実際の照会方法は自治体によりかなりバラつきがありますが、3親等原則を厳格適用すると、照会対象となる扶養義務者が何十人にもふくれあがることになります。

 さて、来月15日から始まる臨時国会では、先の国会で廃案となった生活保護法の改定が議論される予定です。改定にはいわゆるアメとムチの両側面があり、ムチにあたる改定にこの扶養義務の強化・厳格運用があります。具体的には扶養義務者へもミーンズテストを可能にするというのです。私も初めて聞いたときは、じぇじぇじぇ~と、のけぞりました。運用は自治体のさじ加減ですが、これまでのように「ムリムリムリ」では済まされず、親族の利用する銀行や働いている会社への調査まで可能になるようです。これが実行されると、従来のスティグマと相まって、生活保護申請の委縮効果はさらに拡大し、すでにゴリ押し導入された保護費カットより強いムチになりかねず、強烈な水際作戦と言えます。

 一方、生活保護には捕捉率という問題があります。生活保護を利用する条件、資格がある人のうち、実際に生活保護を受給している人の割合を捕捉率といい、日本ではこれが2割弱と大変低いのです。捕捉率はドイツで65%、フランスで90%と高く、仮に日本の捕捉率がドイツ並みに引き上げられると被保護者は717万人(現在は約200万人)になると言われています。法改定で扶養義務の強化が行われれば、低捕捉率はさらに拍車がかかり、ザル法ぶりが顕在化します。そして、貧困は拡大・蔓延し、そのまま放置しておくと、いずれ社会全体が、やられたらやり返す「倍返し」を食らうのは必至です。

 むろん財政の規律は重要です。だから多くの現場では「福祉から就労へ」のスローガンを掲げ、保護財政を実質的に効率化させ、同時に捕捉率も上げるという二兎を追っているのです。数少ない不正受給問題を執拗に攻めたて、一部芸能人の扶養問題に乗じた生活保護バッシングはもうこれくらいにして、もっと建設的な議論をしてほしいものです。これから始まる国会論戦をにらみつつ、当面は、二兎を追う最適戦略の端緒を生活困窮者支援事業に見出し、秋の夜長に、ない知恵を絞って、戦術づくりです。