「三人のレンガ職人」というお話、ご存じだろうか。企業経営の世界ではかなり有名のようですが、たぶん福祉業界ではご存じでない人が多い、との独断で、この機会に紹介したいと思います。
ある旅人が小さな町の広場で同じ作業をしている三人のレンガ職人に出会います。旅人が一人目のレンガ職人に「あなたは何をしているのですか」と尋ねると、職人は「見ればわかるだろう。レンガを積んでいるんだよ」と答えました。二人目のレンガ職人にも同じ質問をすると、「レンガを積んで壁を作っています。この仕事は大変ですが賃金が良いんでやってます」と答えました。三人目のレンガ職人に同じ質問をすると、「教会をつくるためにレンガを積んでいます。この教会は多くの信者の大切な心のよりどころ。いいものをつくってたくさんの信者に喜んでもらいたいのです」と答えたそうです。数年後、三人目の職人は、目的意識をもった技術者だと高く評価され、現場監督として教会づくりを任されます。そして完成した教会に、彼の名前が付けられました、というお話。
どうでしょうか。大変、意味深いと思います。仕事に内在する目的と手段の理解やモチベーションなど、働く上で大切なことを示してくれています。最近、福祉現場にもサラリーマン現象が増えているようなのでなおさら重要。採用や育成というテーマにもヒントを与えてくれています。見た目は同じ仕事をしていても、仕事への日々の姿勢が将来を左右するというメッセージも込められています。
ひるがえって、老人ホームで食事介助や排せつ介助をしているスタッフさんに、「あなたは何をしているのですか」と尋ねたらどんな答えが返ってくるだろうか。外出介助をしているヘルパーさん、高齢者や障害者を送迎しているドライバーさん、配食サービスのスタッフさん、会計担当スタッフさんにも、「あなたは何をしているのですか」と質問してみようか。もし、あなたがサービスを利用する立場なら、どんな答えをするスタッフに担当されたいだろうか。
いかなる重い障害があっても人間としての尊厳が保たれ、その人らしく生きていける。障害がある人もそうでない人も、すべての人々が豊かにつながり、認めあい、支えあい、そして高めあえる地域社会をつくること。つきなみですが、福祉という仕事の目的は、つまるところ、そういうことなのだと思います。介護も送迎も配食も会計も、目的達成への手段だと常に認識できるようにしたいところです。
仕事を振り返りながら、「あなたは何をしているのですか」と自分に問うてみてください。毎日でなくても、時々、自問するクセをつけるといいかもしれません。チームみんなで「私たちは何をしているのか」と質問しあい、仕事の意義や価値を共有してください。私も「ヒューマンライツさんは、何をしているのですか」と聞かれたら、「福祉でまちづくり」と自信をもって答えられるようになりたいと思います。