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社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

なぜ今、こどもの「座る力」が注目されるのか:こどもリハビリテーションセンターだより

こどもの「落ち着きがない、不器用…」もしかしたら“座る力”が原因かもしれません。~こどもの集中力と自己肯定感を育む「姿勢」のヒント~

「食事中にすぐ立ち歩いてしまう」「お絵描きや宿題に集中できない」「なんだか不器用で、すぐ『疲れた』と言う」。実はそのお悩み、単なる性格やクセではなく、体を支える『座る力』が関係しているのかもしれません。

近年、外遊びや体を動かす機会が減り、体幹が弱く、正しい姿勢を保つのが苦手な子どもが増えています。特に、スマートフォンやゲームに触れる時間が増えた現代では、自分の体を支える力が十分に育っていないお子さんが多く、その結果、食事中や授業中に落ち着いて座っていられなかったり、鉛筆やお箸の使い方がぎこちなかったりといったサインが現れることがあります。

この記事では、こどもリハビリテーションセンターの作業療法士、理学療法士が、お子さんの健やかな成長の土台となる『座る力』の重要性と、ご家庭で今日から実践できる簡単なヒントをご紹介します。

なぜ今、こどもの「座る力」が注目されるのか?

多くの保育園や小学校で、食事中や授業中に姿勢が崩れる子どもたちの姿が見られます。これらの行動は、単に「落ち着きがない」「不器用」という言葉で片付けられるものではなく、安定して座り続けるのが難しいという体からのサインかもしれません。

【体からのサイン】チェックリスト。こんな座り方、していませんか?

お子さんが椅子に座っている時、次のような姿が見られませんか?

  • 背中が丸まり、猫背になっている
  • 椅子に浅く腰掛け、足をぶらぶらさせている
  • 机に肘をついたり、頬杖をついたりしないと座っていられない
  • すぐに机に突っ伏してしまう
  • 体をくねくね、そわそわと常に動かしている

そもそも人が安定して座るには、土台となる骨盤をしっかりと立て、その上に背骨、肩、頭が積み木のようにバランスよく乗ることが理想です。

しかし、体の軸となる「体幹」の力が弱いと、骨盤が後ろに倒れやすくなります。すると背中が丸まり、いわゆる「猫背」の状態になります。

体は倒れまいと無意識に筋肉を緊張させるため、余計なエネルギーを消耗してしまうのです。特に、筋肉が柔らかめな「低緊張」のお子さんは、姿勢を保つためにより多くの努力が必要となり、疲れやすい傾向があります。

その結果、本来なら手先を使う作業(食べる、書く、作る)や、先生の話を聞くことに向けられるはずの集中力が十分に発揮しにくく、たとえ発揮できても長く維持するのが難しい状態になってしまうのです。

姿勢が変われば、こどもの意欲も変わる

座りやすい環境を整えることは、単に「行儀が良くなる」だけではありません。姿勢が安定することで、お子さんには次のようなポジティブな変化が期待できます。

  • 手先が安定し、細かな作業(文字や絵、お箸の使い方など)が上達する
  • 疲れにくくなり、集中できる時間が長くなる
  • 食事や学習への意欲が高まる

お子さんの「座る力」を育てるための具体的なアプローチを見ていきましょう。

“座る力”を育てる!今日からできる2つのアプローチ

焦る必要はありません。「体づくり」と「環境づくり」、両面からのアプローチが効果的です。

アプローチ① :【体づくり】遊びが一番のトレーニング!

遊びを通して、体の土台となる体幹を安定させることが全ての基本となります。「トレーニング」と構えず、親子のスキンシップの時間として楽しんでみてください。

例えば

  • おふねがぎっちらこ♬:親子で向かい合って座り、手をつないで押したり、引いたり、左右に揺れたりする遊びです。楽しく触れ合いながらバランス感覚を養い、体幹を鍛えられます。
  • 手押し車:親が子どもの足を持ち、子どもは両手で体を支えて前に進みます。腕の力だけでなく、姿勢を保とうとする体幹の力も養えます。
  • バランスボール:バランスボールに腹ばいで乗り、両手で床を押して前後に進みます。体幹を鍛えるだけでなく、腕で体を支える力も身につきます。
  • プランク(腕立ての姿勢):うつ伏せから、ひじとつま先で体を持ち上げ、頭からかかとまでが一直線になるようにキープします。

 

アプローチ②:【環境づくり】座るのが楽になる工夫

筋力が育つのを待つだけでなく、すぐに取り組めるのが「環境づくり」です。道具を使って物理的に体をサポートすれば、お子さんは楽に、そして集中して座れるようになります。

《座りやすい環境3つのチェックポイント

①【足】足の裏全体が、床か足台にしっかり着いていますか?

足が宙に浮いていると体が不安定になり、姿勢が崩れる大きな原因になります。踏ん張りがきかないため、上半身に余計な力が入ってしまうのです。

②【お尻】骨盤を立てて、背筋が伸びる座面になっていますか?

少し傾斜のあるクッションなどを使い、お尻の後ろ側を高くしてあげると効果的です。骨盤が自然と前に傾き、無理なく理想的な姿勢に導けます。

③【背中】椅子に深く座り、背もたれで体を支えられていますか?

お尻が前に滑ってしまう場合は、背もたれとの間にクッションなどを挟み、座る奥行きを調整してあげましょう。

《具体的な環境の整え方》

お子さんの「座る環境」を整えるには、クッションや背当て、足台を活用することがポイントです。

  • 足元を安定させる

足が床や足台にしっかりと着くようにしましょう。足が宙に浮いていると、体が不安定になり集中力が途切れる原因になります。足台がずれてしまう場合は、椅子の足にはめ込むタイプを使うと安心です。

  • 座面と背もたれで姿勢をサポート

座面には、後ろが高く前が低い傾斜付きクッションを使うのが効果的です。また、椅子に深く座り、背もたれが背中をしっかりと支えているか確認しましょう。もし、お尻が前に滑ってしまう場合は、背もたれにクッションや丸めたバスタオルを挟んで奥行きを調整してください。このとき、膝の裏と座面の間に指3本分(4〜5cm)程度の隙間ができるようにすると、前滑りを防ぐことができます。

【特集コラム】 お子様の姿勢をサポート! ジョイントマットで手作りクッション

市販の姿勢サポートクッションも良いですが、ご家庭にあるもので作ることもできます。

今回は、古くなったジョイントマットを再利用したDIYアイデアを3種類ご紹介します。

《準備するもの(共通)》

■材料

  • 古くなったジョイントマット:作りたいものに合わせて適量。
  • お好みの布や合皮:クッションなどを覆える大きさのもの。汚れに強いラミネート生地などもおすすめです。
  • 接着剤:多用途ボンドなど、プラスチックや布に対応しているもの。
  • (背もたれ用)紐やゴム:椅子に固定するためのもの。

■道具

  • カッターナイフ、カッティングマット
  • 定規
  • はさみ
  • (必要であれば)キリ、千枚通しなど穴を開ける道具

 

《座面クッションの作り方》

自然と骨盤が立ち、正しい姿勢を促すためのクッションです。

【ステップ1:マットをカットする】

まず、お子様が使っている椅子の座面のサイズを測ります。そのサイズに合わせて、ジョイントマットを3〜5枚ほどカットしましょう。

【ステップ2:傾斜のある土台を作る】

  1. マットの1枚を土台として使います。
  2. 残残りのマットは、1枚ずつずらしながらカットし、接着剤で貼り重ねていきます。
  3. すべてのマットを貼り合わせたら、接着剤が完全に乾くまでしっかりと固定してください。

〈ポイント〉 座面に傾斜をつけることで、座ったときにお尻が後ろに滑りにくくなり、背筋が伸びやすくなります。

【ステップ3:カバーをかける】

  1. 出来上がった土台を覆えるように、少し大きめに布をカットします。
  2. シワにならないよう、少しずつ引っ張りながら丁寧に布を貼り付けます。角の部分は、プレゼントのラッピングのように折りたたむと綺麗に仕上がります。

 

《背もたれクッションの作り方》

背中を優しく支え、楽な姿勢を保つためのクッションです。

  1. 椅子の背もたれの大きさに合わせて、ジョイントマットを1〜2枚カットします。
  2. マットの上部2箇所に、キリなどで紐やゴムを通すための穴を開けます。
  3. 紐やゴムを通し、椅子の背もたれに結びつけて固定します。お好みで座面クッションと同様にカバーをかけても良いでしょう。

 

《足台の作り方》

クッションで座面が高くなり、足が床につかなくなった場合に併せて使うと姿勢が安定します。

  1. お子様が座ったときに、足裏全体がしっかりとつく高さを決めます。
  2. 椅子の脚がはまるように「コ」の字型などにマットをカットし、決めた高さになるまで接着剤で貼り合わせます。
  3. 安定感があり、滑らないかを確認してから使いましょう。

【手軽なアイデア】

手作りのクッションは少しハードルが高いと感じる方でも、ご家庭にあるもので簡単に工夫できます。例えば、座布団の上に固く折りたたんだバスタオルを重ねるだけで、簡易的な傾斜クッションになります。タオルがずれないように、滑り止めシートを挟んだり、カバーで覆ったりすると、さらに使いやすくなります。

まずは、できることから

もちろん、どんな子どもでも長時間じっと座っているのは難しいものです。時には体を動かしたり、姿勢を変えたりするのは自然なこと。大切なのは、お子さんが「やってみよう!」と思った時に、無理なく集中できる環境を整えてあげることです。

毎日お忙しい中で、完璧を目指す必要はありません。たった一つの工夫が、お子さんの力を引き出す大きな一歩に繋がります。

お子さんの発達に関するお悩みがあれば、当センターまでお気軽にご相談ください。

お問い合わせ先

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こどもリハビリテーションセンター

 

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