全部を一度に試す必要はありません。お子さんに合いそうなものから、無理なく取り入れてみてください。
感覚の過敏さへの工夫

「強い光」「大きな音」「衣服が肌に触れる感じ」「周りの視線」など、外からの刺激に敏感に反応してしまうお子さんがいます。
気持ちが不安定になることを防ぐために、以下のような工夫が効果的です。
視覚の刺激に対して
- 強い光を避ける(カーテンで調整する、照明を工夫する)
- 刺激が強い色の物を避ける(白いノートが眩しい場合は、クリーム色やパステルカラーのノートを使うと見やすくなります)
- 読みやすいフォント(ユニバーサルデザインフォント)を使う
- 教室では蛍光灯のちらつきが気になる場合もあります
聴覚の刺激に対して
- イヤーマフや耳栓を使う
- 「これから大きな音が鳴るよ」など事前にお知らせする
- 静かな環境を選ぶ
- 運動会や発表会では、リハーサルで慣れる時間を作る
触覚の刺激に対して
- 衣服の素材に気を配る(柔らかい素材、縫い目が少ないものを選ぶ)
- ゆったりしたデザインの服を着る
- 服のタグを切り取る
- 安心できるように好きな手触りのものを持たせる(ハンカチ、ぬいぐるみなど)
味覚・嗅覚の刺激に対して
- 特定の食べ物の匂いや食感が苦手な場合は、無理に食べさせない
- 給食では、苦手なものは少量から始める
- 香りの強い柔軟剤や芳香剤に反応する場合もあります
- 栄養面が心配な場合は、医師や栄養士にご相談ください
※感覚刺激への反応は個人差が非常に大きく、合わない場合もあります。お子さんの様子を見ながら、慎重に試してみてください。
※お子さんによっては、適度な感覚刺激(ぎゅっと抱きしめる、重いものを持つなど)が、体への適度な圧迫感によって落ち着くこともあります。
気持ちが高ぶったときの工夫

いつもと違うことが起きたり、予想外の状況になったりすると、気持ちが不安定になるお子さんがいます。
そんなときに落ち着ける方法として、次のような工夫があります。
クールダウンの時間
お子さんが困った様子を見せたときに、静かな別の部屋に移動するなどして、落ち着くまでの時間を作ること。
無理に説得したり叱ったりせず、まずは気持ちを落ち着かせることを優先します。
落ち着けるスペース
外からの刺激(光や音、周りの視線など)をできるだけ減らした場所で、感覚に敏感なお子さんが安心して過ごせる空間を用意すること。
予告と見通し
急な変更が苦手なお子さんには、事前に「あと5分で終わりだよ」「次は○○をするよ」と伝えることで、心の準備ができます。
タイマーや砂時計で「見える時間」にすると、さらにわかりやすくなります。
落ち着く方法を一緒に見つける
- 深呼吸を一緒にする(「風船をふくらませるように」など具体的に)
- 好きな音楽を聴く
- 触ると落ち着くおもちゃ(スクイーズ、ストレスボールなど)を用意する
これらの工夫は、気持ちが高ぶった原因から離れたり、見通しを持てるようにすることで、心を落ち着かせることができます。
伝わりやすいコミュニケーションの工夫

耳から入る情報を整理するのが苦手なお子さんには、イラストカードなどを使う「視覚での伝え方」が効果的です。
視覚で伝えるメリット
耳から入る情報よりも、目で見る情報の方が少なくて済み、理解しやすくなります。
また、何度も見返すことができるので、記憶の定着にも役立ちます。
具体的な使い方の例
- 日常生活で: 「朝ごはん」「着替え」「歯磨き」「お風呂」などの場面でイラストカードを見せることで、次に何をすれば良いのかがわかりやすくなります
- 園・学校で: 一日のスケジュールを絵カードで掲示することで、見通しが持てて安心できます
- 時間の見える化: 7時起床→7時半朝食→8時登園のように、時計と絵カードを組み合わせて「見える時間割」を作ると、お子さんも見通しが持ちやすくなります
イラストカードの入手方法
- 市販の絵カードセット(書店やインターネットで購入可能)
- 無料ダウンロードサイト(「絵カード 無料」で検索)
- 写真を使った手作りカード(お子さんの実際の生活場面を撮影して使うと、より理解しやすくなります)
声かけのポイント
- 短く、具体的に: 「あれ取って」「それ片付けて」といった指示語ではなく、「リモコン取って」「おもちゃを箱に入れてね」のように具体名を出します。また、「ちゃんとして」という曖昧な表現ではなく、「靴を揃えてね」と具体的な行動を伝えるのがコツです
- 肯定的な伝え方を: 「走らないで」ではなく「歩こうね」、「騒がないで」ではなく「小さい声でね」のように、「してほしいこと」を伝えるようにしましょう
- 選択肢を示す: 「赤い服と青い服、どっちがいい?」のように選択肢を提示すると、お子さんも選びやすくなります
- 待つ時間を確保: 声をかけた後、お子さんが理解して行動するまで「待つ」時間を確保しましょう。すぐに反応がなくても、せかさずに待つことが大切です
集中しやすい環境づくり

落ち着きがないお子さんには
周りのいろいろなこと(他のお友達の声、動き、窓の外の景色など)に意識が向きやすいお子さんがいます。
他のお子さんより多くの情報を受け取ってしまうため疲れやすく、長い時間座り続けることが難しくなります。
教室などでの工夫の例
- 前の方の席に座ってもらい、目に入る情報を減らす
- 先生の近くや、掲示物が視界に入りにくい最前列中央を選ぶ
- お子さんが何に気を取られやすいかによって場所を選ぶ
- 廊下の音が気になる場合は窓側に
- 窓の外(校庭や道路)が気になる場合は廊下側に
- どちらも気になる場合は、刺激が少ない角や壁際を選ぶ
- 机の上は必要なものだけにして、整理整頓を心がける
- 適度に体を動かす時間を作る(休憩時間に外遊び、ストレッチなど)
- 長時間の課題は小分けにして休憩を挟む
- タイマーで「あと10分」を見える化し、「ここまでできたら休憩」と明確にする
忘れ物や予定忘れが多いお子さんには
たくさんの情報を受け取ると、何が大切かを選ぶことが難しくなります。
そのため、明日の予定や必要なものなどの大事な記憶が抜けやすくなり、忘れ物が多くなることがあります。
工夫の方法
- 予定を書き込むメモ帳やスケジュール帳を使い、目で見てわかるようにする
- 連絡帳は保護者と一緒に確認する習慣を作る(お子さんの年齢や発達段階に応じて、徐々に自分で確認できるように)
- 朝や寝る前に荷物をチェックすることを習慣にする
- 玄関に「持ち物チェックリスト」を貼る
- ランドセルに入れる場所を決めて、写真で示す
スケジュールを書くことで情報の整理がしやすくなり、先の見通しが立ちやすくなります。
また、道具の使い方や習慣づくりは、ご家族や先生など周りの方の協力があると、さらに定着しやすくなります。
読み書き・計算が苦手なお子さんには

読み書きや計算に時間がかかるお子さんがいます。
知的な発達には問題がないのに、特定の学習だけが難しい場合、工夫次第でぐっと学びやすくなります。
読み書きへの工夫
- タブレットやパソコンを活用する(音声入力、読み上げ機能)
- 漢字にルビ(ふりがな)を振る
- マス目の大きいノートを使う
- 文字を拡大コピーする
- 定規やマーカーを使って、読む行を明確にする
計算への工夫
- 計算ドリルより、具体物(おはじきなど)で数の感覚をつかむ
- 電卓の使用を認める
- 図やイラストを使って、視覚的に理解する
大切なこと
「やる気がない」「努力が足りない」と誤解されやすいため、周りの大人が特性を理解し、適切な支援を提供することが重要です。
生活リズムを整える工夫

発達の特性があるお子さんの中には、生活リズムが乱れやすい子もいます。
睡眠や食事のリズムを整えることで、日中の落ち着きや集中力が改善することがあります。
睡眠リズムを整える
- 毎日同じ時間に寝る・起きる習慣を作る
- 寝る前のルーティン(絵本、お風呂など)を決める
- 寝室は暗く静かな環境にする
- 寝る直前のゲームやスマートフォンは避ける
食事のリズム
- 3食をなるべく決まった時間に食べる
- 感覚過敏で偏食がある場合は、無理強いせず少しずつ
- 食事の環境を整える(テレビを消す、落ち着いた雰囲気で)
運動の時間を確保
適度な運動は、脳の発達を促し、夜の睡眠の質も向上させます。
※生活リズムを整えても睡眠が改善しない場合は、睡眠障害の可能性もあります。気になる場合は医療機関にご相談ください。
5. 家庭・園・学校をつなぐ

お子さんの育ちを支えるには、みんなで情報を共有することが大切です。
園・学校訪問
当センターでは、ご希望に応じて保育園・幼稚園・学校へ訪問し、先生方と一緒にお子さんをサポートする体制を整えています。
実際の環境を見せていただきながら、具体的な工夫を一緒に考えることができます。
定期的な情報交換
お子さんの様子や効果的だった支援方法を共有しましょう。
家ではできることが園ではまだ難しい、その逆もあります。それぞれの場面での様子を知ることで、より良い支援につながります。
「今日できたこと」を共有することで、お子さんの成長をみんなで喜び合えます。
困ったことだけでなく、小さな成功や頑張りも伝え合いましょう。
みんなが過ごしやすい環境を
環境設定は、特定のお子さんだけでなく、クラス全体にとっても過ごしやすい環境につながります。
「特別扱い」ではなく「みんなのための工夫」として取り入れることで、お子さんも周りも安心できます。
【先生方へ】
環境設定は、特別なお子さんへの「特別な配慮」ではなく、すべてのお子さんが学びやすい「ユニバーサルデザイン」の考え方です。クラス全体に良い効果をもたらします。
日々のお子さんへの関わりや支援方法を考える際に、この記事の内容をお役立てください。
6. 環境設定を始める前に知っておきたいこと

ここまで、さまざまな「環境設定」の工夫をご紹介してきました。
実践する前に、大切にしていただきたいことをお伝えします。
大切な4つの心構え
① 「甘やかし」ではなく「必要な支え」です
環境設定は、目の悪い人がメガネをかけるのと同じこと。
お子さんが本来の力を発揮するための、大切な土台づくりです。
「甘やかしているのでは?」という不安は手放して、お子さんに必要な支援を自信を持って提供してください。
② 全部できなくても大丈夫。「まずはひとつ」から
ご紹介したアイデアをすべて試す必要はありません。
「これならできそう」「お子さんが喜びそう」と感じたものを、ひとつだけ選んで試してみましょう。
小さな一歩が、大きな変化につながります。
うまくいかなくても、「この方法は合わなかったんだな」とわかっただけでも前進です。
③ ひとりで抱え込まず「チーム」で
家庭だけで頑張る必要はありません。
園や学校、そして当センターのような支援機関と情報を共有し、「チーム」でお子さんの成長を見守っていきましょう。
お子さんを支える大人たちがつながることで、お子さんはどの場所でも安心して過ごせるようになります。
④ 保護者の方も、完璧を目指さなくて大丈夫
お子さんの支援に一生懸命になるあまり、ご自身が疲れ切ってしまっていませんか?
全部完璧にやろうとせず、できるところから、無理のない範囲で始めましょう。
保護者の方が元気でいることが、お子さんにとっても一番の支えになります。
実践する3つのステップ
環境設定を始めるときは、次の3つのステップを意識してみてください。
STEP 1:お子さんの様子を観察する
「音に敏感かな?」「見通しがないと不安そうかな?」と、困りごとの背景にある「理由」を探ってみましょう。
お子さんの行動には必ず理由があります。
じっくり観察することで、お子さんが何に困っているのかが見えてきます。
STEP 2:小さな工夫を試してみる
カーテンを閉める、静かな場所を作る、絵カードを使うなど、お子さんに合いそうな工夫を、ひとつずつ取り入れてみましょう。
完璧を目指さず、「ちょっとやってみようかな」という軽い気持ちで始めることが大切です。
STEP 3:うまくいったら共有する
家庭でうまくいった工夫は、ぜひ園や学校の先生にも伝えてみてください。
逆に、園や学校での工夫もご家庭に取り入れてみましょう。
家と外の環境がつながることで、お子さんはもっと過ごしやすくなります。
小さな工夫の積み重ねが、お子さんの「できた!」を増やし、自信につながっていきます。
7. 私たちの取り組み 〜遊びの中で育つ力〜


こどもリハビリテーションセンターでは、お子さんの特性に寄り添いながら、『遊び』を取り入れた専門的なリハビリテーションを実施し、コミュニケーション能力や基礎的な身体能力の向上をサポートしています。
運動と言葉・コミュニケーションはつながっている
体を動かすことは、実は言葉の発達とも深く関係しています。
「ジャンプ」「投げる」「バランスをとる」といった運動経験を通して、脳の神経ネットワークが育ち、それが言葉を理解したり表現したりする力にもつながっていきます。
特に幼児期から学童期にかけては、神経機能が大きく発達する重要な時期。
繰り返し体を動かすことで、脳の信号伝達もスムーズになっていきます。
「できた!」が自信になる
タイミングよく体を動かす、力加減を調整する。
こうした運動経験を積むことで、将来の学校生活やスポーツの基礎が身につきます。
「できた!」という成功体験は、お子さんたちの自己肯定感を大きく育てます。
小さな「できた」を積み重ねることで、お子さんは「自分はやればできる」という自信を持つようになります。
8. よくあるご質問

Q. 「様子を見ましょう」と言われましたが、何もしなくていいの?
A. 「様子を見ましょう」と言われても、何もしないで待つ必要はありません。この記事でご紹介した環境設定など、今できることから始めてみてください。気になることがあれば、いつでもご相談ください。
Q. 診断を受けていなくても相談できますか?
A. はい、診断の有無に関わらずご相談いただけます。「気になる」と感じたら、お気軽にお問い合わせください。早めのサポートが、お子さんの「できた!」を増やすことにつながります。
Q. 環境設定をすると、甘やかすことにならない?
A. 環境設定は「できるようになるための土台作り」です。適切な環境があることで、お子さんは安心してチャレンジできるようになります。例えば、メガネをかけることが「甘やかし」でないように、お子さんに必要な支援を提供することは大切なサポートです。
Q. 他のお友達と違う対応をすると、周りの目が気になります
A. 「みんなが過ごしやすい環境」として取り入れることで、特別扱いではなく、クラス全体に良い効果があります。例えば、イラストカードはクラス全員にとってわかりやすいツールです。お子さんが必要としている配慮を、自然な形でクラスに取り入れることができます。
Q. 激しく興奮してしまったときはどうすればいいですか?
A. まずは安全確保を最優先に。「ダメ」「やめて」ではなく、静かに見守ります。落ち着いてから、優しく声をかけましょう。何が原因だったか、後で一緒に振り返ることも大切です。どうしても困ったときは、すぐにご相談ください。
Q. いつまでサポートが必要ですか?
A. お子さんの成長とともに、必要なサポートは変化していきます。環境設定を通じて、お子さん自身が「自分に合った方法」を身につけていくことで、徐々に自立していきます。焦らず、お子さんのペースを大切にしましょう。
9. こんなときはご相談ください

- 1歳半・3歳児健診で「様子を見ましょう」と言われた
- 園や学校から「気になる」と言われた
- 他のお子さんと比べて発達がゆっくりな気がする
- お子さん自身が困っている様子が見られる
- 育てにくさを感じて、保護者自身がつらい
- どう関わったらいいか悩んでいる
- 園や学校での過ごし方について相談したい
- 周りから「気にしすぎ」と言われて不安
- 保護者自身が疲れ果てている
「様子を見ましょう」と言われても、不安な気持ちを抱えたまま待つ必要はありません。
早めのサポートが、お子さんとご家族の「過ごしやすい毎日」につながります。
最後に
「環境設定」は、特別な道具がなくても、ちょっとした工夫で始められることがたくさんあります。
でも、一人で頑張る必要はありません。
「動きがぎこちない気がする」「集中が続きにくい」「お友達との関わりが心配」など、気になることがございましたら、こどもリハビリテーションセンターにお気軽にご相談ください。
お子さん一人ひとりの個性を大切にしながら、ご家庭での工夫を一緒に考えていきます。
また、ご希望に応じて、通われている保育園・幼稚園や学校へ訪問し、先生方と一緒にお子さんが安心して過ごせる環境づくりのお手伝いもしています。
お子さんらしさを大切にしながら、一緒に「過ごしやすい毎日」を作っていきましょう。
※この記事の内容は一般的な情報提供を目的としています。お子さんの状態や必要な支援は一人ひとり異なりますので、具体的な対応については支援機関にご相談ください。
※発達の特性は、その子の「個性」の一部です。この記事では支援が必要な側面に焦点を当てていますが、お子さんの素晴らしい面、得意なことにもぜひ目を向けてください。
【参考】知っておきたい「発達の特性」
発達の特性には、代表的なものとして「ADHD(注意欠如多動症)」「ASD(自閉スペクトラム症)」「LD(学習障害/限局性学習症)」などがあります。
ADHD(注意欠如多動症)の特性
「注意の持続が難しい」「落ち着きがない」「衝動的に行動する」といった特性があります。
- 忘れ物が多く、注意が続きにくい
- 落ち着きがなく、じっとしていることが難しい
- 順番を待つことや衝動を抑えることが苦手
ASD(自閉スペクトラム症)の特性
「こだわりがある」「コミュニケーションが苦手」などの特性があります。
- 特定のことへの強いこだわりがある
- 相手の気持ちや表情を読み取ることが苦手
- 急な変更が苦手で、いつもと同じ流れを好む
LD(学習障害/限局性学習症)の特性
「読む」「書く」「計算する」のいずれか特定の部分に著しい苦手さがある特性です。
苦手な部分以外は年齢相応の理解力を持っていることが多いため、「やる気がない」「努力が足りない」と誤解されやすい傾向があります。
※診断名は医療機関によって表記が異なる場合があります。