福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

自立支援って何だろう

 突然ですが、介護支援のケーススタディをしませんか。今から2つのケースについてご紹介しますので、どちらが支援として適切か、支援計画をつくるケアマネージャーになったつもりで、考えてみてください。もちろん素人さんも参加できるので気軽にお付き合いください。なお、このスタディは代表的な事例です。介護支援は個別性が高く、解は絶対ではないことをあらかじめご了承ください。

 要介護4、齢80となった男性がお二人(Aさん、Bさん)おられます。お二人とも脳梗塞で緊急入院し、手術によって一命はとりとめましたが身体に障害が残りました。入院中は懸命にリハビリに励みますが、十分に回復せず、退院後の日常生活ではヘルパーさんの助けが必要です。ここでは衣服の着脱を例に考えてみたいのですが、お二人とも独力では着脱に30分くらいはかかります。退院後、Aさんは、できることは自分で、人さまに迷惑をかけず、少しでもスムーズにできるようにならねば、と独力で着脱に取り組みます。支援するヘルパーさんは傍で見守ります。一方、Bさんは、ヘルパーさんの手を借りて、5分くらいでさっさと着脱を済ませ、残った25分を自分の趣味の書道の時間にあてるような生活スタイルを送られています。さて、あなたならどちらの暮らしを選びますか。また、ケアマネージャーだったらどちらの支援計画を選択しますか。簡単です。さぁ、スタディしてみてください。

 来年4月、介護報酬改定が行われます。前回改定時、自立支援型介護という考え方が示され、できなかったことができるようになる、要介護度が改善する、などといった支援を報酬上評価する方針が打ち出されました。来年改定でもこれが引き継がれていく見通しです。介護の基本を医療モデルにおくか社会モデルにおくかは、かねてから議論はありますが、自立支援型介護はどちらかというと医療モデル。国は表面上、介護保険はICFモデル(社会モデル)が基本と言っていますが、実際の報酬段階では医療モデルが重視され、社会モデル、すなわち一人一人の自己実現をアシストする介護(自立)支援という考え方は希薄です。しかも昨今の自己責任社会では、医療モデルが受け入れられていくのでしょう。

 当法人の基本的な支援の考え方は、社会モデルです。できなかったことができるようになる、いわゆる「感動ポルノ」には与しません。子どもならまだしも、相手は大の大人。しかも齢80を迎えた人生の大先輩にむかって、障害を乗り越え、自分でできるようになりましょうといった関わりはナンセンスです。できるように努力することを否定はしませんが、ご本人には、もっと他にやりたいこと、やり残したことがあるはずです。その人らしい暮らしを支えるのが自立支援なのです。で、スタディの解は、Bさんへの支援ですが、あなたの解はどちらでしたか。自立支援型介護への注目に加え、来年は感動ポルノの気配が満載のパラリンピックの年です。イヤーな空気が蔓延しないことを願う今日この頃です。