福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

もうひとつのコロナ対策

 先月来よりコロナ陽性者数が再び増加しています。そんな中、当法人利用者にもCの人が出て、現場に緊張感が走りました。コロナ陽性者をA、Aと濃厚接触があった人をB、CはBと濃厚接触のあった人。A~Cの区分けは私が勝手にしている数珠繋ぎです。Aには発熱症状があったようですが、BもCも無症状でした。今回Cは2名おり、基礎疾患があるグループホーム居住者です。現場では、Bの検査結果が出るまで、臨時の泊り対応に入りましたが、Bは、緊張のせいか唾液検査がうまくいきません。その後、PCR検査を受けるのですが、これもなかなかスムーズにいかず一喜一憂。みなで固唾を飲みました。数日後、結果は陰性と判明。溜飲が下がり、Cも無症状だったので泊りは解除されました。

 実はこのケース、今後の教訓にすべき貴重な経験となりました。というのもAは他事業所のヘルパーで、発熱があり、PCR検査で陽性判定が出ているのに、それを会社に連絡せず、勤務を続けていたというのです。聞いたときはドキッとし、途方に暮れました。コロナ対策は密閉、密集、密接の3密回避が基本ですが、今回の経験で、当法人の現場責任者は、3密に「秘密」を加えた「4密回避」の重要性を痛感。すぐさまスタッフ間で問題意識を共有し、内外への徹底を申し合わせることになりました。

 さらに、利用者は複数の事業者のサービスを利用しているので、当法人だけが感染症対策を徹底してもリスク管理は完全でないことを改めて浮き彫りにしました。もとより、ゼロリスクは不可能ですが、すべての福祉事業者が、プロとしてやれる対策はしっかりやる必要があります。行政には認可や指導等を通じて感染症対策の履行能力や実績をチェックしてほしいところです。私は自粛警察やマスク刑事ではないし、同調圧力には抗うタイプです。しかし、感染症対策に不真面目な事業者は排除されるべきだし、淘汰される介護市場が形成されてしかるべきだと思うのです。仮に感染者が出ても、その事実を秘密にしない透明性ある事業者に信頼や評価が集まる、そんな健全な社会になってほしいと願います。

 さて、Aヘルパーは、なぜ発熱や陽性判定を秘密にしたのか。考えられる主な理由は、①ただでなくても現場は人手不足なので、発熱や陽性でくらいでシフトに穴をあけられない、②コロナでサービス提供が中止になると、さらに売り上げが減り、会社がもたない、③時間給で働く非正規労働者なので、コロナで休むと給料が減り、生活が苦しくなる、④陽性が明らかになれば、自分だけでなく家族まで周囲からの忌避や差別にあうので怖い。他にも理由はあるでしょうが、福祉現場の人手不足や疲弊、長引く不安定な雇用実態、厳しいコロナ差別の存在が垣間見られます。こうなると、単純にけしからんでは済まされない個人責任を超えた社会問題です。感染拡大を助長する秘密回避のためにも、日本が抱える構造的課題にメスを入れる必要があり、その責任は政治に、役割は行政にあると感じる酷暑の夏です。