福祉でまちづくりを進める
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会

優劣などありません


 過去。とは言っても、戦後誕生し、わずか20年ほど前まで日本で運用されていた優生保護法。優生を保護するという何とも差別的な法律で、「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に、2万5千人以上もの障害者らが不妊(優生)手術をうけ、うち1万6千人強もの人は強制だったということが報道されています。被害にあった人たちが国に損害賠償を求める訴訟が徐々に広がり、政治救済を話し合う議連が超党派で組織されています。国や政治は、まかり間違ってもこれ以上「当時は合法だった」とくだらない開き直りをしてはなりません。被害者には何度でも何度でも何度でも謝罪して当然だし、早急な実態解明としっかりとした賠償をしなければならないと思います。加えて、十分な告発や是正要求もせず同時代を生きてきた私自身はもとより、社会の多くの人々にも猛省が求められているでしょう。

 現在。既存の検査に比べ、リスクが低く精度が高いと言われる新型出生前診断が、臨床研究の段階を終えることになりました。母体の血液を採取して、ダウン症など胎児の染色体異常を調べるこの検査。日本産科婦人科学会は、命の選別につながると、これまでは臨床研究という形で制限的に扱ってきたのですが、高齢出産の増加等を背景に方針転換。今春からは一般診療として本格実施することにしたようです。本来なら、検査を通じて妊婦の不安解消や治療への備えに役立てることを目的としているはずですが、現実は異常が確定した妊婦の9割以上が人工中絶を選択しているようです。母体保護に加え、障害をもつ子どもを抱えた人生への不安や苦難を考えての苦渋の選択なのでしょうが、障害児が生まれることを回避し、防止する点においては、優生思想につながる社会の冷徹な実態を示しています。

 未来。ヒトの遺伝子を操作して、親が望む能力や外見をもった子ども、いわゆるデザイナーベイビーを誕生させる研究が進んでいます。優生保護法による不妊手術、染色体異常による人工中絶といったこれまでの対処的な行為とは次元が違い、遺伝子組み換え人間の製造は、人類への冒涜だという人もいます。最近では、デザインのための高精度で低価格な遺伝子解析システムが開発され、特許が認められたそうです。価格は約1万円。もしこれらが一般に普及すれば大変です。巷では、種の弱体化や私たちが遺伝子操作されていない人類の最後の世代になるかもしれないと、早くも警鐘が鳴らされています。

 強制不妊手術をはじめ、命の選別や倫理という美しい言葉では収まりきらない非情の世。生まれ来る子どもたちが障害を理由に排除されてしまう。そんな障害者に生きづらい厳しい社会の現実が、過去から現在、そして未来へと綿々と続いていく。むろん、あるはずのない命の優劣。障害があっても安心して子どもを産み育てられる社会。そして、私たちが掲げるインクルージョン社会の実現には、まだまだ多くの試練と難所があることを改めて自覚し、固く帯を締め直さなくてはと痛感する今日この頃です。